痴漢加害者は、逮捕されれば、当番弁護士制度の対象となるので、弁護士は、初回相談無料で接見に来てくれる。
引き続いて、痴漢加害者が勾留され、資力要件を満たせば、被疑者国選弁護の対象事件となるので、国費で弁護士をつけることもできる。
近年、東京地裁は、痴漢で逮捕されても、同じ路線の電車に乗らないことを誓約すれば、原則として勾留しないことにしている。毎年出ている犯罪白書を見れば明らかだが、痴漢加害者は、他の犯罪と比べて、圧倒的に有職者が多い。勾留がつかない場合は国選弁護の対象とならないのだが、弁護人の費用を支払える者が多いので、自費で私選弁護人をつける傾向が高い。
痴漢被害者は、勇気を振り絞って痴漢を突き出したと思ったら、警察から電話で「加害者の弁護人が示談交渉を希望しています。あなたの連絡先を教えてよいですか?」と聞かれる。
痴漢被害者にとって、これは怖い。弁護人とは言え、加害者側の人間に、氏名と電話番号など教えたくない。
被害者をサポートする制度があっても……
痴漢は性被害なので、痴漢被害者の資力が300万円以下であれば、日弁連の委託援助事業のうち、犯罪被害者法律援助を利用して、痴漢被害者側が金銭の持ち出しをすることがなく、弁護士の援助をつけることができる。
しかし、痴漢被害者に弁護士がついたところで、被害弁償を受け取れば、痴漢が起訴されない現実は、痴漢被害者を落胆させるに十分だ。
痴漢を安全ピンで撃退する話は、多くの痴漢被害者が泣き寝入りしている状態で、いわば「心のお守り」のように言い伝えられてきたと私は思ってきた。
もちろん、いくら痴漢であっても、人の手をピンで刺せば、傷害罪の実行行為にあたることは間違いない(詳しくは後述するが、痴漢が急迫不正の侵害にあたることを理由に、「正当防衛」にあたるという見解もある)。
警察OBに「安全ピンで刺すのはダメ。ノック式のボールペンの芯を出さずに手の甲を刺すと、痛いし、跡は残るし、怪我しないし、お勧め。ペンならなんでもいい」と教えていただいたことがあり、同じ「心のお守り」ならボールペンにしてほしいとは思う。