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 では、痴漢被害の実態はどうか。埼玉県警は、平成28年、県内の女性を対象に「痴漢犯罪の抑止について」という表題で簡易アンケートをとった。

「あなたは、これまでに痴漢の被害にあったことがありますか」という質問に対して、「はい」と答えた人が67.1%、「いいえ」と答えた人が32.9%であった。東京で逮捕されたすべての痴漢が埼玉と東京を結ぶ埼京線に乗っていたとしても、67.1%の痴漢被害体験者が累積することはありえない。いかに多くの痴漢が野放しになっているか、ご想像いただけるだろうか。

 斉藤章佳著「男が痴漢になる理由」には、痴漢250人に対するヒアリングの結果が載っている。彼らは性嗜好障害という依存症となっており、痴漢行為を止めることは容易ではない。野放しにされた痴漢は、また電車に乗るのである。

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40.2%の被害者が「その場で対応できた」と答えたが……

 では、なぜ痴漢は野放しにされてしまうのか。痴漢被害にあった人のうち、「あなたは、痴漢の被害にあったときに、その場で何か対応することができましたか」という質問に対して、「対応できた」と答えた人が40.2%、「何もできなかった/我慢した」と答えた人が59.8%であった。

 一瞬「意外にみんな対応することができたのだな」と思ったのだが、「対応できた」の内容が問題であった。

「その場から逃げた、移動した」が52.0%、「手を払いのけたり足を踏んだりして抵抗した」が45.9%、以下「身をよじった」「カバン等で防いだ」という消極的な対応が上位に並び、「警察に通報した」人は6.1%、「犯人を捕まえた人」は、わずか5.1%しかいなかった。

 つまり、痴漢被害者のほとんどが泣き寝入りしているのである。

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痴漢を逮捕しても、実刑にはなかなかならない

 しかも、無事、痴漢を逮捕することができても、痴漢被害者の気持ちは晴れない。

 痴漢の初犯は、迷惑防止条例違反なら罰金20万円から30万円、強制わいせつなら間違いなく執行猶予がつく。5~6回逮捕されれば実刑になり得るが、痴漢の初犯で刑務所に行くことはまずない。

 それでもなお、起訴前に示談が成立して不起訴になれば、前科がつかないので、逮捕されたら示談したいと弁護人に希望する痴漢加害者は多い。

 通常、示談と言えば、加害者が罪を認め、被害者が寛大な処分を求める内容が多い。しかし、痴漢の場合は、接触した可能性があることは認め、不快な気持ちにさせたことにつき金銭を支払うが、わいせつの意図はなかったと主張するタイプの申入れもある。これでも痴漢被害者が金銭を受け取ったら、前科はつかない。