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在日カナダ人の僕が、阪神のマット・マートンを忘れられない理由

2019/07/01
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“発見”を淡く期待するように

 これは一体どういうことだろう? 米国にいる彼の家族や友人たちは、彼がどうしているか知りたくはないだろうか? わたしはブログでマートンと、阪神で活躍するもうひとりのアメリカ人、ランディ・メッセンジャーについて主に取り上げることにした。

 マートンやメッセンジャーがオンラインでわたしのブログを“発見”してくれやしないかな、と淡く期待していたが、彼らがわたしを見つけるのにそう時間はかからなかった。2014年のクライマックスシリーズでの阪神の素晴らしい健闘ぶりによって(ちなみに、マートンもこの時期を阪神でもっとも印象深い時期に挙げている)わたしが運営する小さなサイト、Hanshin Tigers English Newsは少しずつ口コミで知られるようになった。そして、ついにその口コミはターゲットに届いたのだ。

マット・マートン ©文藝春秋

まさかマートンに会えるなんて

 ここで次のシーズンへ早送りしよう。2015年のちょうど今頃に、友人がスタバで一緒にコーヒーを飲まないかと誘ってくれた。神戸の三宮がお互いの職場の中間にあったため、友人の好きなお店で会うことにした。偶然にも、僕がコーヒーを注文して振り向いたらなんと… …背が高くて、ガタイのいい、鬚面の赤毛の男性がコーヒーを注文しに並んでいた。その日にまさかマートンに会えるなんて思ってもみなかった。

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 どうせわたしのことを知らないだろうと思ったし、騒がしいファンだと思われたくなかったので、短い会話を交わした。まあ、それに、彼はあまりおしゃべりやツーショットの気分でもなさそうだったし。タイガースはその前の週末、オリックス・バファローズに0-1、1-15、1-10で惨敗していた。

マット・マートン氏 ©文藝春秋

「オフを楽しんでいますか? それとも、今日も練習?」

「いや、練習はなかったですよ。一日中休みだった」

「大変な週末の後ですから、ゆっくりやすんでくださいね。テイク・イット・イージー」

 それだけ。写真もサインもなし。残ったのは、ただ非現実的な経験をしたということ。

 ただ、実はその後、彼が妻にそのときの話をしたそうだ。彼女はわたしが誰かを説明し(マートンの家族はすでにサイトを発見していた)、彼はなぜわたしがまともな自己紹介をしなかったのだろう、といぶかしんだらしい。