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在日カナダ人の僕が、阪神のマット・マートンを忘れられない理由

2019/07/01
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玄関先に届いた大きな箱

 悲しいことに、そのシーズンの終わりにマートンはタイガースを離れることになった。そして、そのタイミングで大きなサプライズがあった。彼の妻から「マットがあなたの住所を知りたいって」とメールがあったのだ。2日後、玄関先に大きな箱が届き、中にはサイン入りの練習用ジャージー、トレードマークとなったリストバンドがいくつか、名刺、その他いろいろ。複雑な気持ちとはまさにそのときの気持ちを言うのだろう――プレゼントに歓喜する気持ちと、別れを悲しむ気持ちと。

マット・マートン氏からの贈り物(筆者提供)

 そこから、マートンはメジャーリーグに復帰しようとし、シカゴ・カブスの3Aチームで少しの間プレーしたが、力が及ばず、2018年1月に引退した。それ以来、彼はカブスのスカウトとして活躍している。

 わたしたちの関係は地理的な距離が開いてから、より豊かなものになった。彼はわたしのポッドキャストに2度出演してくれ、わたしが受講していたスカウトレッスンのためのインタビューや、新聞への寄稿記事のための取材に応じてくれた。

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「これ日本語に訳してくれない?」

 マートンがわたしに向けてくれた親切心だけでなく、日本全体に向けて関心を持ち続けてくれていることにいつも感謝している。昨年、大阪北部で地震があった際や、台風によって西日本が甚大な被害を受けた際、マートンはすぐさま動いた。どちらのときも、彼は「これ日本語に訳してくれない?」とメールを送ってきた。

「それは大変だったね。君の友人や家族は無事かい? もしこのようにツイートしたら、適切かな?」と前置きした後、このように書いてきた。「台風21号は凄まじい勢いで関西を襲ったニュースを見て悲しかった。アメリカから少しでも手助けができればなんでもやります。西日本が一刻でも早く復旧できるように祈っています(これを日本語で)」

 わたしは自分の日本語能力を総動員して返信をし、阪神ファンの間でで彼のツイートはバズったのだった。

 しかも、ツイートだけで終わらせなかった。その後、2015年以来初めて来日し、関西の人々を元気づけるため、公の場に何度か顔を出した。彼は滞在中、わたしなんかとお茶を飲む時間まで捻出してくれた。そしてマット・マートンらしく、スターとして持ち上げられることを望む代わりに、逆にわたしに元気かどうか、家族はどうしているかなどを聞いてくれたのだった。

マートン氏(右)と筆者(左)(筆者提供)

 わたしはこの2回しかマートンに会ったことがないが、彼が阪神ファンに見せた誠実さは100%彼の素顔だと、自信を持って断言できる。そして、試合中の彼のパフォーマンスの卓越性以上に、その誠実さが彼を僕の最も好きな歴代阪神タイガース選手にしているのである。

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