――アベノミクスから、靖国問題、地方創生、非正規雇用、沖縄基地問題まで、安倍政権の重要課題を網羅的、意欲的に論じられていますね。
もともとブログ記事なので、その時々の時事的テーマを扱っています。その際、イデオロギー的な批判も、政界裏話も避けるようにして、今どんなことが問題になり、今どんな対立や論争が生じているかという“構造”を可視化することを心がけました。
構造的な理解というのは、言い換えれば、タテ(=歴史的経緯)とヨコ(=各国比較)の視点を意識するということです。ですから、テーマは時事的であっても、すぐには古びない中身になっていると思います。
――増田寛也著『地方消滅――東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)に関して、「若い女性を地方から東京に出さないようにしなければならない」という総括はかつての柳澤伯夫元厚労大臣の「産む機械」発言と同根ではないか、と指摘されていて、印象的でした。女性ならではの視点だと……
日本の社会、とくに政治の世界は、長らく男性中心であったので、その意味で、この本に従来の議論とは異なる「視点」が含まれているということはあると思います。ただ、それはどちらかというと著者が「たまたま女性であった」という程度のような気がします。
そもそも、女性の立場も多様化していますから、女性の視点ということ自体成立しにくくなっていますし、従来は女性の問題として捉えられていた、例えば子育ての問題も、実際には「女性の問題」ではないことが明らかになってきています。むしろ、「共同体の宝である子供をみんなでサポートする」という問題として捉えるべきです。
――「闘え左翼! 正しい戦場で」「共感せよ右翼! 寛容の精神で」とおっしゃっていますね。
「リベラル」も「保守」も、自分を「弱者」扱いして狭い世界に閉じこもり、広く共感を求めようとしてきませんでした。双方とも「政治」を否定形でしか語らず、理想を語っていません。
「リベラル」の方は、既得権益を守ることに汲々とし、安全保障や歴史認識ばかりを問題にしてきました。そういうなかで、弱い立場にとどめおかれている「地方」「非正規」「女性」に十分に目を向けてきたと言えるのか。他方、靖国問題などで国内を分断させている「保守」に対しては、「保守」の本来の役目として、国民の一体感や共感にもっと配慮すべきでないか、と言いたいです。
もちろん、政治はきれいごとではありません。だけど、理想を失ってもいけない世界です。そういう「政治」を読み解くには、知識だけではなくセンスも必要で、そのための「政治リテラシー」を身につけるのに、この本を少しでも役立てていただけたらうれしいです。