トレードで阪神タイガースへ移籍した高野圭佑投手の自宅にはビジター用の帽子が大切に飾られている。なにかのメモリアルというわけではない。それは今年の4月12日、イースタン・リーグ ファイターズ戦(鎌ヶ谷)の事。2回無死二、三塁の場面でファイターズ白村の打球が頭部を直撃。起き上がれず、その場に倒れこんだ高野は担架に乗せられ、その後、救急車で病院に搬送された。その時に被っていた帽子である。

石崎剛とのトレードで阪神に移籍した高野圭佑 ©千葉ロッテマリーンズ

頭部直撃から命を救ってくれた「帽子」

「あの時、打球がゆっくりとスローモーションのように近づいてきた。冷静にボールを見ることが出来ていたので自分の中では獲れると思っていたけど、思うように手が動かなかった。その時、ああ、これは当たると思いました。ドンという衝撃音が聞こえて、吹っ飛びました」

 当時の事を本人は振り返る。その場にいた誰もが凍りつくほどの頭部直撃だった。両軍からトレーナーがグラウンドに飛び出してきて倒れ込む高野に「動くな!」と声をかけた。ただ、本人はいたって冷静な心理状態にあった。

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「当たった瞬間は凄い衝撃音がしたので、これはヤバいなあと思っていました。死ぬかもしれないと。ただ痛みが来ない。それでも今は神経がマヒしているだけで、そのうちに凄い痛みが来るのだろうと思っていました」

 結果的に時間が経っても痛みが襲ってくることはなかった。救急で運ばれた鎌ヶ谷市内の病院での診断結果は頭部打撲で脳、骨には異常が見られなかった。奇跡と言ってよかった。しかし、なぜ大怪我を免れることが出来たのだろうか。疑問は残った。その答えは被っていた帽子を見て分かった。

「帽子のツバが見た事がないほどグニャッと波をうって折れ曲がっていた。ボールが帽子のツバに直線的に直撃した。その結果、帽子のツバが防波堤となって衝撃を緩めてくれたのです。もし、ほんの少しでも、ずれていたら、間違いなく顔にボールが正面衝突していて大怪我だったと思います」

 だから、自分の代わりに衝撃を緩め、命を救ってくれたと言っても過言ではない帽子は大切に取り扱っている。

 そしてその場所にはもう一つ、お守りが置かれている。これにも奇跡としか言いようがないようなエピソードがある。