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「貧乏人の食べ物」と蔑まれたタピオカ 3度目のブームは何が違う?

実はあの商品の“もちもち”にも貢献

2019/07/06

genre : ライフ, グルメ

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第1次タピオカブームの特徴は?

 タピオカは、イモの一種であるキャッサバのでんぷんを水に溶いて加熱後、粒状に乾燥させたものだ。80年代前半から輸入されていたが、長時間ゆでる手間が敬遠され、ごく少数の中国料理店でしか使われていなかった。風向きを変えたのが、バブル期のエスニック料理ブーム。東南アジア諸国系のレストランが、いっせいにタピオカをココナッツミルクに浮かべたデザートを出したのである。

 このとき使われたのは、いまドリンクに入っている大粒で黒い「ブラックタピオカ」ではなく、透明で小粒タイプのタピオカ。カエルの卵にそっくりな形状と、くず餅やわらび餅とは似て非なるプニュプニュ、もちもちした食感が衝撃的で、たちまち花形スイーツの座を獲得した。タピオカココナッツミルクは、洋菓子が圧倒的主流だったスイーツ流行史上、はじめて東南アジアからやって来たという点でも、画期的だった。

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 2回目のブームは、2000年代初頭に「タピオカミルクティー」が大ヒットしたときだ。こってり濃厚で甘いミルクティーに、ブラックタピオカが沈んでいる。1980年代に台湾の喫茶店で創案されたドリンクである。

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 見た目のユニークさはタピオカココナッツミルクをはるかに超え、太いストローで吸い込みながら食べるところが斬新。大粒のぶん、より強靱なもちもち感が楽しめる。飲み物であって食べ物でもあることも大受けして、タピオカミルクティーは大手メーカーのカップ飲料として、コンビニにも並ぶようになった。

あんなものにまで……日本人の食生活に潜むタピオカ

 ところで、タピオカはそれ自体、ほぼ無味無臭である。味と香りに主張がないため、どんな食材とも合わせやすく、個性は食感だけという非常に珍しい食品だ。また、タピオカでんぷんは、食品の粘度を高める増粘剤として非常にすぐれており、多種多様な加工食品に使われている。パッケージの裏の原材料を見てみて、「でんぷん」または「増粘剤(加工でんぷん)」とあったら、かなりの確率でタピオカだ。実は、ものすごく身近な食品なのである。

 パンがもちもちとしていると喜ばれるようになったのも、タピオカの影響である。もちもちパンのパイオニア、「新食感宣言」(山崎製パン)は、はじめてタピオカでんぷんを使用したのが革新的な食パンだった。以降、もちもち志向はパンにとどまらず、ケーキや和菓子、麺類やお好み焼きなど、粉もの全般に広がった。

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 元来、日本の伝統食品でもちもちしているのは、もち米と餅だけだった。ところが、タピオカでんぷんは、小麦粉だけでは出せない、しかも餅とは異なる湿りけとやわらかさを伴い、歯切れのよいもちもち感を可能にしたのである。

 2回目のブームから、静かに定着していたタピオカが、3回目のブームを起こすきっかけは、2013年にタピオカミルクティー発祥の店とされる台中の「春水堂」が、代官山に海外初支店を開いたことだった。

 それからというもの、台湾のみならず、韓国やタイ、アメリカからも人気大型チェーン店が続々と上陸し、新規国産チェーン店も次々と出現。いまのところ、出店の嵐がやむ気配はない。