敵から身を守るためなのか、世間に認めてもらうためなのか。今日も女は、心身ともにさまざまな「甲冑(かっちゅう)」を着たり脱いだり大忙し――。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で大ブレイクしたジェーン・スーの最新エッセイが連載で登場! 収録されているエッセイ6本を5月28日の発売に先行してお披露目します。あなたが知らない間に着ているのは、どんな甲冑?

女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。

ジェーン・スー(著)

文藝春秋
2016年5月28日 発売

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 あれは2015年初夏のことでした。今年も暑くなりそうだからアレが必要だと思い、私はミッドタウンのユニクロへ行きました。私はたいていソレをユニクロかニッセンで買います。化繊のものは食い込むしムレるので、綿100%を好みます。汗かきなので、着たら毎日ジャブジャブ洗います。そのせいか去年のものは毛玉が出来てヨレていた。だから新しいものをいくつか買おうと思ったのです。色は黒とグレーと、あったらネイビー。

 ユニクロに到着し、私はお目当ての商品を探しました。が、どこにもありません。時期的にはまだ売り切れるはずがなし、かといって店頭に並んでいないとも思えない。韓流アーティストのような髪型のシュッとした店員を呼び止め、私は尋ねました。

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「すみません。七分丈のスパッ……レギンスありますか?」

「ありません」

 韓流君が間髪入れずに答えます。ユニクロは店員の愛想の当たりはずれが日本一デカい小売店だと個人的に思っていますが、今日はハズレだったようです。ないわけが、ない。私は続けました。

「もう売り切れですか?」

「……いえ、今年はご用意がないです。十分丈はこちらにありますけど」

 韓流君は涼しい顔で十分丈レギンスの棚に目をやります。そう、そこはさっき見たの。見たけどなかったの。

 私は噴飯の面持ちで店を出ました。七分丈レギンスがないなんて、どんだけBIG BANGだよ。ユニクロも随分怠慢になったな。そう思いました。夏に向けての書き入れ時に七分丈スパッ……レギンスがないなんて。だったらどうやって夏のワンピースを着たらいいの。チュニックの下になにを穿(は)けと言うの。十分丈? 拷問か! いや、さすがに店員さんが間違えていたのかもしれないな。銀座店ならあるかもね。その頃はまだそう思っていました。

 怒りに任せ、いつもより大きな歩幅でズンズン歩いたら青山に着きました。いつ来てもこの街のオシャレな女率は6割5分。すさまじい比率です。オシャレっていったって、そんじょそこらのオシャレさんじゃないですよ。ひと昔前の言い回しなら雑誌からそのまま飛び出してきたような、いまで言うならインスタグラムで数千人のフォロワーがいるような一般人がその辺をゴロゴロしているのです。これはなかなかすごい比率です。代官山にいくとそれが男女ともに8割を超えて、私は酸素欠乏症になるのですが。

 で、街ゆく女性たちを見ていて気が付きました。七分丈レギンスなんて穿いている女、ひとりもいない。嘘。みんないつの間に捨てたの。

 おっとこれは大変だ。女性誌のファッションページを読まない私の知らないところで、とてつもない地殻変動が起こっている。焦った私はその足で表参道や恵比寿を歩きました。やはり、七分丈レギンスを穿いている女はひとりもいません。ハーフパンツから細い足を出したり、細めのチノをさっと足首あたりでロールアップしたりした小生意気な女ばかりが街を闊歩(かっぽ)しています。中年ならガチョウと読み間違える、でおなじみのガウチョパンツ着用者は、騒がれているほどはいませんでした。ワイドパンツは難しいですよね。

 七分丈レギンサーが見つからないのは、季節が早すぎるからかと思いました。もっと暑くなれば誰だって薄手のワンピースを着る。そうしたら、みんなその下に七分丈のレギンスを穿くに違いない。一縷(いちる)の望みを抱き、私はそのあとも街を彷徨(さまよ)いました。が、その夏TOKYOオシャレスポットで七分丈レギンスを穿いている女は、結局ひとりしか見かけませんでした。私と同じような腹回りを持つ、五十がらみのご婦人でした。

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