これまで小泉進次郎は、応援演説の会場を選ぶ際、誰でも行くような大都市の中心街やロードサイドのショッピングモール前でマイクを握ることをできるだけ避けてきた。移動に時間がかかってもあえて過疎地に足を運んできたのである。
聴衆の目線に近い高さから訴える配慮を貫いてきた
参院選の場合は衆院選よりも回るべき選挙区の数も限られているため、奥地に入る移動時間が確保しやすい。小泉は人に来てもらうよりも自ら出向く姿勢を強調し、街宣車の上よりも聴衆の目線に近い高さから訴える配慮を貫いてきた。2013年の参院選は「1日1島」の離島巡り、2016年の前回は「1日1作物」の農村巡りを計画し、既存の政治家にはない個性的な旅を演出してきた。
だが、今回はそういう手の込んだ仕掛けがない。「年金」や「教育」という暮らしに身近なテーマを掲げながらも、自民党が誇る高機能街宣車「あさかぜ」を使い、凡百の政治家のように聴衆を見下ろすようなスタイルが目立つ。遊説日程というものは、小泉の一存では決められないものだが、それでも従来は自分の思いを反映させ、独自のカラーを出すことにこだわってきた。
7月4日~8日までの序盤、小泉が1日当たり4か所ほど回る中、私は毎日2か所で眺めてきた。小泉の真骨頂が色濃く出ていたのは、公示後2日目にあった朝一番の演説会だった。
農道の傍には防雪柵が備えられている
岩手県西和賀町(人口約5600人)。秋田県横手市から県境を越えた先にある、1000メートル級の奥羽山脈に囲まれた小さな温泉郷だ。東北新幹線が停まる北上市からは車で1時間の距離にある。国から「特別豪雪地帯」の指定を受けるほどの雪国でもあり、農道の傍には防雪柵が備えられている。
数千人ほどが住む山奥の集落の中心に、平屋建てのスーパーマーケットがある。演説会場となったその駐車場にはプラスチック製のミカン箱が置かれ、開始30分前から老人たちが座りながらおしゃべりしていた。そこに笑顔でやってきたスーツ姿の小泉はそのミカン箱に立つと思いきや、品川ナンバーの「あさかぜ」の上から町人たちを見下ろすようにマイクを握った。だが、それでも聴衆との距離が近いように感じた。