「メンズ」という言葉が定着し、LGBTQに寛容な女子サッカー界でも、公にカミングアウトしている選手はほとんどいません。チームの運営が、セクシャリティに限らず、選手のプライベートな情報を出したがらないという事情もありますし、指導者層には外からの見え方を気にしている人も多い気がしています。選手がLGBTQであることが、“クリーン”なことだと思われていない、と感じることもある。
「あの人が大丈夫なら、自分も」と思ってもらえれば
――実際、カミングアウトしてみて、下山田さんはどう感じていますか。
下山田 正直、悪いことはなにもなかったです。むしろ、本当に生きやすくなったなと感じています。
当事者として、LGBTQアスリートについて発信して伝えられたらいいな、と思うことは2つあって。まず、アスリートではない、一般の人たちには、「身近な人がLGBTQの当事者かも」と思うきっかけをギブできればいいな、と。
LGBTQアスリートたちに対しては、ある意味生贄になるつもりというか……(笑)。これから下山田志帆がどうなっていくんだろう、って見守ってほしいです。
カミングアウトにはメリットもデメリットもあるので、一概に「したほうがいいよ」と発信するつもりはないです。でも、自分が「カミングアウトして、生きやすくなったよ」と言うことで、「あの人が大丈夫なら、自分も」と2人目、3人目が出てくるのが理想だと思うので。
――今後はどのような活動をするのですか。
下山田 2020年の東京オリンピックに向けて、今後「多様性」がビッグワードになってくるはずです。LGBTQ当事者に限らず、いろいろな立場の人たちが自分らしく生きていくチャンスを掴める時期だと思いますし、だからこそ、ドイツから日本に帰ってきて活動したいと思いました。
この夏からなでしこリーグ2部のスフィーダ世田谷の選手としてプレイします。この2年間でLGBTQアスリートとして発信できることはしていきたいし、マイノリティである、ないに関わらず、同じ意識を持った人がいれば、ぜひ一緒にタッグを組んでいろいろなことをやっていきたいです。今後も注目してください。
写真=深野未季/文藝春秋