LGBTQアスリートは、間違いなくいる
――下山田さんは大学時代の卒業論文(注5)で、慶應大学の学生アスリートやスポーツ指導者へのヒアリング調査と、慶應大学の学生アスリート267名を対象にした意識調査をしています。日本ではほとんど前例がないタイプの調査ですが、どういったことが明らかになったのでしょうか。
下山田 まず、「LGBTQの学生アスリートは、間違いなくいる」ということです。「わたしは当事者です」と答えたアスリートが21名いました。
もう1つ、大きな発見だったのは、チームメイトが、チームに当事者がいることを必ずしも認識しているわけではない、ということ。「わたしは当事者です」と回答した選手のチームメイトで、自分のチームに当事者がいるかという設問に対して「確証はないがいないと思う」「いない」と回答している人は87名もいました。「いる」という事実と、「いない」と思っているチームメイトの意識のギャップがある。
――「いるかもしれない」という認識は、やはり大事なのでしょうか。
下山田 大事だと思います。
LGBTQアスリートに対する考え方を調査した項目では、「受け入れる考え方」を示したアスリートは、ほとんどLGBTQアスリートにカミングアウトされているチームメイトでした。逆に、「壁のある考え方」を示したアスリートは、カミングアウトされていないチームメイトだった。
――関連性が見られたのですね。
下山田 はい。おそらく、カミングアウトされているチームメイトたちは、LGBTQアスリート当事者のことを、当人の人間性や考え方で評価しているために、受け入れる考え方を持ったのだと思います。
逆に、カミングアウトされていないチームメイトたちは、マスメディア等の影響によるLGBTQ像が、そのままLGBTQアスリートへのイメージに繋がっている、と推測できます。
調査でわかった、LGBTQアスリートのニーズ
――調査の対象となったLGBTQアスリート当事者が、周囲にして欲しいと思っていたことはなんでしょうか。
下山田 回答からは、「存在を認めてもらった上で、特別視せずに接して欲しい」という思いを持っていることを、強く感じました。
――「存在は認めるけど、特別視はしないでほしい」。
下山田 分かりやすい例が、「いじり」だと思います。調査を通じて「LGBTQアスリートのストレスになりうる事例」や「LGBTアスリートの心の支えとなる事例」を集めたのですが、「ゲイっぽい、女・男っぽいなど容姿や発言・プレースタイルをいじる」「公の場で『ゲイなの?』と否定的なヤジを飛ばす」などといった「いじり」は、「LGBTQアスリートにとってストレスとなりうる事例」として挙げられた。
でも、同時に、当事者が可視化されていて、本人とのコミュニケーションがきちんと取れている場合は、むしろ「いじり」が心の支えとなることがある、という回答もありました。たとえば、LGBTQに寛容な女子サッカーだと、「メンズのくせに」などと気軽に冗談を言ってもらえることで、むしろ「存在を認めてもらえている」と感じる場合がある。
注5……下山田志帆(2017年)「スポーツチームにおけるLGBTアスリートを取り巻くチーム環境についての考察」慶應義塾大学湘南藤沢学会