プレステ部門はサイロの象徴?
じつはプレイステーションには、社内に競合企画が二つありました。どれもCD-ROMを使った端末です。当時、「ソニーの三悪人」と言われるほど口八丁手八丁で、政治的な手練手管もつかう人たちがいましたが、そのうち一人は久夛良木で、残りの二人も同時期に、同じようなコンセプトの端末をソニー・ミュージックへ売り込んできた。
そのとき私は、いちばんプレゼンテーションが面白くて、ヒットの可能性を感じた久夛良木の案を選びました。
――久夛良木氏の率いていたプレイステーション部門ですが、『サイロ・エフェクト』では、ソニーのサイロの象徴のごとく描かれています。本社への統合を何度も拒否し、本社ビル内に移転してからも周囲をガラスの壁で囲ったというエピソードが紹介されています。
SCEが本社ビルに移ったとき、私はSCEとソニー・ミュージックの役員を退任して、ソニーグループから完全に離れていましたので、事情は直接、知りません。ただ久夛良木はサイロの典型という面があったとは言える。私がSCEの役員をしていた時は、「久夛良木のマネージャー」だと称して、周囲との通訳をしていたほどです。
――この本の終章に、サイロ・シンドロームの弊害を緩和するためにはスペシャリストのサイロの間を行き来する「文化の翻訳家」が必要だ、とある。丸山さんが「通訳」をしていた時期は、サイロの弊害が表面化しなかったわけですね。
ただ、「通訳」、あるいはマネージャーにも限界がありますよ。これはあらゆるミュージシャンに言えることですが、大成功をおさめると、ある時期からマネージャーの言葉を聞かなくなるものです。そうなるとサイロそのものになってしまう。