現在放送中のNHKの連続テレビ小説『なつぞら』では、下山克己というアニメーターをお笑いコンビ・麒麟の川島明が演じている。下山は、広瀬すず演じるヒロイン・奥原なつが入社したアニメーション制作スタジオ・東洋動画の先輩の一人で、以前は警察官だったという異色の経歴を持つ。いつもかぶっているハンチング帽がトレードマークだ。この下山のモデルとされるのが、実在のアニメーターの大塚康生である。大塚は1956年に東映動画(現・東映アニメーション)の第1期生として入社し、のちには多くのアニメーション映画、テレビアニメで作画監督を務め、日本のアニメーションの発展に大きく貢献した。1931年7月11日生まれの彼は、きょう88歳の誕生日を迎えた。
アニメーターになる前は麻薬Gメンだった
大塚康生は島根県に生まれ、小学2年生のときに山口県山口市に転居した。戦前から終戦直後にかけての少年時代には、機関車や自動車などのスケッチに熱中し、やがて絵で生計を立てたいと思うようになった。ただし、それを実現するまでにはかなり回り道をしている。旧制中学を卒業後、1951年に山口県庁に就職するも、翌年には厚生省の採用試験に合格して上京、関東甲信越地区麻薬取締官事務所に麻薬Gメンとして配属された(※1)。『なつぞら』の下山の元警察官という設定は、大塚のこの前職を反映しているのだろう。
アニメーション制作に憧れたのは、ソ連のイワン・イワノフ=ワノ監督の『せむしの仔馬』、さらにフランスのポール・グリモー監督の『やぶにらみの暴君』(のちに改作されて『王と鳥』と改題)を観て衝撃を受けたのがきっかけだった。それから関連書を読むなどして独学していたころ、東映がアニメーション映画(当時は「漫画映画」と呼んだ)制作を始めるという新聞の小さな記事が目にとまり、日動映画社のスタジオを訪ねる。日動はこのときすでに東映と合併することが決まっていた。