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笑え、高橋!――広島カープの眠れる大器へのエール

文春野球フレッシュオールスター2019

2019/07/11

※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2019」に届いた約120本を超える原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】suga(すが) 広島東洋カープ 49歳 広島県出身。しがないサラリーマン。カープを愛する野球好きで愛猫家。帰宅のときにスポナビ一球速報に静かに一喜一憂。2017年文春野球フレッシュオールスター、ウィンターリーグ出場。

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笑顔がなかった高橋大樹のヒーローインタビュー

 もう少し愛想よくすればいいのに。高橋大樹(たかはしひろき)のインタビューを観て思ってしまった。高橋は2軍のウエスタン・リーグ開幕戦で4打席で3安打2打点1ホームランと活躍して、グラウンドでヒーローインタビューを受けていた。カープ公式アプリでそれを観たのだ。

――まず今日の試合振り返って。
「(うーんと言葉を探してから)まー勝てたのでよかったと思いますけど、自分ミスしているので、そこがなければ、もうちょっと気持ちよく勝てたかなと思います」

――いろんな思いがあると思います。まずホームランについて振り返っていただけますか。
「(質問終わりの言葉にかぶせ気味に)ちょうどその回にミスしたので、とりあえず塁には出てやろうとは思ってましたけど。まっそれが結果としてホームランになってくれたのはよかったです」

――そのあとの打席でもスリーベースヒットがあったんですけど、あのあたりはいかがですか?
「あれは、風で落ちてくれたんで、ラッキーっちゃ、ラッキーです」

――同点の場面での一打になりましたけど、それはいかがですか?
「まー、勝ったんでよかったです」

――この先に向けて、どんなアピールを続けていきたいですか?
「去年からずっと言ってるんですけど、やっぱり打つことしかないんで。何とか打てるように頑張っていきます」

 誤解ないように補足すると、高橋はインタビュアーに不遜な態度だった、というわけじゃない。そんな感じでは決してなかった。謙虚というのとも違う。インタビュアーはなんとか高橋にアピールをさせてやろうとしている。2軍とはいえヒーローインタビューなんだから、自分のミスへの不満から話を始めなくてもよさそうなものだ。

 何か強い不満や不安があるような感じがした。どうにも年長のおじさんの目には危なかしく映る。世間は表面上だけでも愛想よくした方が得なんだ、長年平穏なサラリーマンを続けた身にそう思わせる。最後の「やっぱり打つことしかないんで」というコメントが引っかかる。こっちは「愛想よくすればいいのに」と思ったが、高橋は「打つこと以外できない、やりたくない」とでも言ってるような気がした。きっと高橋は不満で不安なのだ。今ここにいる自分に。自分を取り巻く状況に。

2軍スタートだった高卒7年目の元ドラ1

 高橋は高校生でドラフト1位指名され、今年で7年目。愛称は「ほんこん」。タレントのほんこんに、どことなく顔が似てる。でもな、ほんこんはもっと笑うぞ。人懐っこく笑えるから人気者なんだ。

 高校生の野手としてドラ1で指名されたのだから、高橋の評価はかなり高かった。そのときの2位が同じく高校生だった鈴木誠也だ。その後、何度も比較される事になってしまった。昨年までの6年間で高橋が1軍で出場したゲーム数はわずか8。シーズン前の春のキャンプでは2軍のメンバーに入っていた。アピールしようにも1軍首脳陣はいない。まるで「お前の実力はわかってるから、こっちから呼ぶまで2軍で待機せよ」とでも首脳陣が言っているようだった。高橋は開幕1軍のメンバーには入れなかった。

 開幕1軍のメンバーには、オープン戦で主役クラスの注目度だった高卒ドラフト1位のルーキー小園海斗の名前があった。小園は人懐っこい笑顔で人気だ。小園を開幕1軍に入れるべきか否かは、カープファン一番の注目ポイントのようだった。美男の人気者、堂林翔太も開幕1軍。堂林と高橋はポジションこそ違うが、右の代打としてはチーム内で同じくらいの立場だろう。

 開幕したウエスタン・リーグで高橋は絶好調だった。打率は3割を超え長打も出ている。アプリでウエスタン・リーグの情報を追いかける。開幕後すぐに2軍になった小園に関しては打席毎に結果が報告されている。高橋の打席の情報は打点をあげたときに出てくる。そのころ1軍のカープは絶不調だった。打線がまったく振るわない。ポジションから高橋のライバルといえる注目の長野久義は、スロースターターということで2割前後の打率だった。それでも長野はスター選手ならではの余裕を感じさせる。入団の経緯もあり、カープファンは長野がそのうち打ち出すことを疑ってないようだった。

「今だろう、今こそ高橋を呼ぶべきだろう、2軍で絶好調なのだ」そう思ってたら高橋が昇格することになった。堂林との入れ替わりだった。地元広島の中国新聞のtweetは1軍にあがった高橋の「やっとです。頑張ります」というコメントを紹介していた。「打てなければ自分の実力不足」とも言っている。悲壮感がある。「もっと笑おう、高橋」そう伝えたくなった。

12年にドラフト1位で入団した高橋大樹 ©時事通信社