本国フランスで400万人を動員、2019年のセザール賞で最多10部門ノミネートを果たした『シンク・オア・スイム―イチかバチか俺たちの夢―』(7月12日公開)。
2年前からうつ病を患い、会社を退職して引きこもりがちなベルトラン(マチュー・アマルリック)は我が子たちからも軽蔑の眼差しで見られている。ある日、地元の公営プールで「男子シンクロナイズド・スイミング」のメンバー募集の貼り紙を目にするが、そのメンバーは皆、家庭・仕事・将来に不安を抱えたおじさん集団だった──。
俳優としても活躍し、今作が初の単独監督作品となるジル・ルルーシュに話を聞いた。
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──『シンク・オア・スイム』には、うつ病、家庭問題、仕事の行き詰まり、親の介護などさまざまな中年クライシスに直面したおじさんたちが登場します。日本でも家庭にも職場にも居場所のないおじさんの孤独や中高年の引きこもりが問題になっていますが、この映画はフランスの現実を反映しているのでしょうか。
ジル 現実は映画よりももっと厳しいですね。映画の中で特に見せたかったのは、メディアの影響です。青春時代には誰もが夢を見ます。どんな車に乗って、どんな腕時計をして、どういう人と結婚して、どんな子どもが生まれるか……。40代になって、メディアが作り上げた基準や幻想とは程遠い現実を突きつけられる。でも、それでも希望は持てるんだよ、ということを伝えたかったのです。
希望を持つには、ただ信じればいいわけではありません。まず、好奇心を持って、人に興味を持ち、外に出ていくことが必要です。中でもスポーツは、社会的なカテゴリーを取り払ったところで、団結力やチームワークを高めることができる。それでこの映画の主題を男子のシンクロチームにしました。
海水パンツ一枚で「裸のつきあい」が出来た
──個人主義的な競争の中にいる私たちにとって、協力をして何かを成し遂げるというのは憧れですが、映画に出てくるおじさんたちは、みんな個性やクセが強すぎて、ちょっと一緒に共同作業したくないタイプです(笑)。
ジル 映画をつくるにあたっても、同じような心配をしました。シンクロチームのメンバーは、主演のマチュー以外も『ザ・ビーチ』のギョーム・カネ、『チャップリンからの贈りもの』のブノワ・ポールヴールド、『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』のジャン=ユーグ・アングラードなど非常に著名な俳優ばかりですが、お互いに面識はありませんでした。誰もシンクロはやったことがないし、シンクロなんか出来そうにないタイプばかり集めました。俳優としては凄いけれど、水に入るとぜんぜんダメな人ばかり(笑)。シンクロのシーンのカメラテストのときは、「これはダメだ……」と頭を抱えたくらいです。
でも、この映画とまったく同じことが実際に起こったのです! 一緒に水に入ってトレーニングし、更衣室で会話を交わしていくうちに、だんだん団結力が高まってきて、「努力をすれば出来る」と彼ら自身も信じることが出来るようになりました。一人では出来ないことも、お互いに支え合えば出来るのだということが証明されたと思いましたね。