──日本に銭湯や温泉などでの「裸のつきあい」という言葉があります。俳優さんたちも「裸のつきあい」をしたということですね。
ジル みな高名な俳優ですから、プライドが邪魔してもおかしくないのに、何の抵抗もなく海水パンツ一枚になってくれたことで、全員が同じ地点に立つことができました。自分を装飾するものをすべて脱ぎ捨てて、文字通り「裸のつきあい」が出来たと思います。
「ダイエットはしないで」と注文した
──先ほどメディアの問題を指摘されましたが、世の中では、体毛のない、鍛え上げられた美しい肉体がもてはやされます。でも、この映画のおじさんたちは、お腹も絶妙にリアルに出ているし、毛むくじゃらだったりもします。彼らは無謀にも世界選手権出場を目論むわけですが、最後には、思わず心底「カッコいい!」と唸ってしまいます。
ジル 俳優たちには、「ダイエットをしないで」「スポーツをしないで」といろいろ注文をつけました(笑)。普通は逆かもしれませんが、今のままでいてほしかったのです。それを彼らは忠実に守ってくれました。
40代から50代の男性のほとんどは、CMやメディアでもてはやされるような肉体美とは程遠いかもしれない。でも、今のままのリアルな肉体であっても、その中に美しさがあるのだということに気づいてほしかったのです。私自身も、最後には彼らの海水パンツ一枚の姿を美しいと思うようになりました。
──日本人は勤勉だと言われてきましたが、日本でも最近は努力はダサいとか、楽にクールに成功するのがいいという風潮があります。この映画は「不格好でもがむしゃらに頑張る」ことを肯定していますね。
ジル 俳優たち自身も、七転八倒して水の中でトレーニングしていましたし、そんな姿には本当に驚かされました。そこに胸を打たれるのではないでしょうか。
今、フランスではSNSやネットが発達したことによるフラストレーションが溜まっています。コミュニケーションが一方通行になってしまっていて、相手を一方的に批判し、他者への寛容さを失っているのです。技術やテクノロジーが進歩することで不幸になってしまった。
それを打ち破るには、まずは家を出ること。家を出たら誰かに出会う。そして相手に好奇心を持つ。その先に夢や希望は見えてくるのだと、そう思っています。
INFORMATION
『シンク・オア・スイム―イチかバチか俺たちの夢―』
7月12日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
http://sinkorswim.jp/