「令和初」の参議院選挙が、7月21日に迫っている。今回の選挙でも経済が大きな争点の一つとなっているが、安倍政権の看板政策でもあるアベノミクスをめぐっては、与党が「成果」を強調する一方、野党は「失敗」と断じている。実際、共同通信の3月の調査によると「景気回復の実感のない人が84.5%」に達するなど、その恩恵は一般庶民にまで届いていない。なぜアベノミクスで景気回復が実感できないのか。その理由を考えてみる。

7月11日、参院選の公示後初めて九州入りし、有権者に手を振る安倍晋三総理 ©共同通信社

雇用は本当に増えたのか?

 野党側が実質賃金低下を指摘する度に安倍総理が持ち出すのが「総雇用者所得」、すなわち雇用者の賃金の総額である。確かに総雇用者所得は増えているが、その理由は単に「雇用者が増えている」から。数が増えたから総額が増えるのは当然だろう。

 だが、問題は「それ、アベノミクスのおかげなの?」ということ。ここで、職種別の増加雇用者数を示した図1のグラフを見てみよう。これは2018年の職種別雇用者数からアベノミクス前である2012年の職種別雇用者数を引いたもの。

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 なんと、医療・福祉が2位以下を大きく引き離してぶっちぎりの1位だ。125万人も増えていて、2位と3位を合わせた数よりもなお多い。これは明らかに高齢者の増大が影響しているので、アベノミクスとは無関係。

 2位の卸売業・小売業も、円安によって恩恵を受けるわけではないし、原材料費の高騰や記録的な消費低迷からするとむしろ害を受ける方なので、アベノミクスとは無関係。

 3位の宿泊業・飲食サービス業のうち、宿泊業は円安による外国人旅行客の増加で恩恵を受けるかもしれない。しかし、飲食サービス業は原材料費高騰や消費低迷の影響を大きく受けるので、アベノミクスとは無関係。

 4位の製造業はアベノミクスの影響といってよいだろう。5位以下は基本的に国内需要に頼るものばかりなので、これもアベノミクスとは無関係。

 アベノミクスがしたことは、要するに「円の価値を落とした」だけ。これと因果関係がなければ「アベノミクスのおかげで雇用が増えた」とは言えないのだ。

『国家の統計破壊』(明石順平 著)

 このように「増えた雇用の内訳」を見ると、アベノミクスとは関係ないことがよくわかるだろう。しかし、なぜか「アベノミクス擁護派」は、この雇用の内訳には触れない。