株価をつり上げるカラクリとは?
安倍総理が雇用の次によく強調するのが株価の上昇。これは「(1)異次元の金融緩和」「(2)日銀のETF購入」「(3)年金資金の投入」が主な要因であって、実体経済を反映していない。(1)と(2)の要因はいずれも日銀によるものだから、端的に言えば「日銀と年金」で株価をつり上げているのだ。
まずは年金から説明しよう。ここで「年金」と言っているのは、正確にはGPIF(Government Pension Investment Fund/年金積立金管理運用独立行政法人/国民が払った年金保険料のうち、積み立てている分を管理・運用している機関)による株式投資のこと。
GPIFは、2014年10月にポートフォリオ(資産構成割合)を変更し、株式への投資割合を約2倍にした。そのため、日本の株式市場に年金資金が大量に投入されることになったのだ。実際の株式の運用額と資産構成比の推移を示した図7のグラフを見てみよう。
ご覧のとおり、株式の運用額は、それまで20兆円程度だったのが、2014年度には30兆円を超えており、前年度と比べた金額で見ると約1.5倍にもなっている。
それに加え、日銀がETFの購入を増やした。ETFというのは、上場投資信託Exchange Traded Fundの略。これは、自分で株を購入するのではなく、投資信託会社にお金を預けて、上場企業の株式に投資してもらい、その運用益をもらうというもの。図8のグラフのとおり、日銀はETF購入を増やし続けている。
しかも、日銀は株価が下がった時にETFを購入し、株価を下支えしている。1回あたりの購入額は約700億円程度であり、市場全体の売買高からすると大したものではないと主張する者もいる。しかし、重要なのは、そのような日銀のETF購入が呼び水となり、投資家の株価購入を促進するということである。実際、「下支え効果が発生している」とする報告書(2015年4月23日付みずほ総合研究所作成)も出ている。効果がなければこんなことはしないだろう。
株価が下がった日は「日銀 ETF」と検索してみるとよい。ほぼ間違いなく日銀によるETF購入が行われている。安倍総理が言う株価上昇の実態である。
安倍総理の主張がいかに実体の伴わないものか、ご理解いただけただろうか。アベノミクス以降、世界では特に大きな経済危機がなかった。だから、自然と景気が上向いていたのである。放っておけばもっと消費も伸びたはずなのに、消費税増税+円安インフレで無理やり物価を上昇させ、他方で賃金が上がらなかったので、消費を異常に冷え込ませてしまった。結局、アベノミクスとは、国民を貧乏にしただけなのである。
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第二次安倍政権の発足以降、わかっているだけでも53件の統計手法が見直され、そのうち38件がGDPに影響を及ぼしている。賃金や消費などの基幹統計は、国民生活と密接に結びついたものである。手法の変更によりかさ上げされた数字では連続性がなく、もはや統計の意味をなさない。これは「統計破壊」と呼ぶべき異常事態である。この問題をいち早く追及し国会でも公述した著者が、公的データをもとに統計破壊の実態を暴く。