「山と私」という天皇のエッセイ
天皇は、登山愛好家としても知られる。1988年2月、28歳の誕生日を前にした記者会見では結婚を富士登山に例えて、「七合目、八合目ぐらいといったところでしょうか」とお答えになったことも。
「山と渓谷」(1996年1月号)には「山と私」というエッセイが掲載された。
〈私の登山は軽井沢の離山に始まる。昭和四十年の夏、五歳の私は父に連れられ、草いきれのなかを自分の背丈以上もある草をかき分けるようにして離山の頂上へ向かった。初めて立った一二〇〇メートル余の頂上でなにを見たかは残念ながら記憶にないが、頂上付近に洞窟があること、熊がときどき現われる話を聞いたこと、シシウドという植物の名を教わったことをはっきりと覚えている。〉
幼少期の登山について、このように鮮やかな筆致で綴られている。