「よど号」事件では人質救出のために……
白大将は、日本赤軍がハイジャックした「よど号」事件の時は交通部長官として、日本人人質の救出に尽力された。当初、韓国側の事件対応方針は極めて強硬であったが、日本政府の「人質の人命尊重を第一に」という要望を承知すると、白大将は韓国政府内部を説得して強硬方針を転換させた。これまでの軍歴と高邁な人格をもって韓国軍・治安機関などを説得できるのは、白大将しかいなかった。
また、日本側対策本部の金浦空港における現地対応に当たっては、陰日向となって日本側に協力し、当時の金山政英駐韓大使と塚本勝一防衛駐在官をはじめとする多くの日本人現地対策員に対し、電話などの連絡手段や対策室の提供、移動手段(車など)の支援といった便宜を計らい、事件の迅速で円満な解決に尽力された。
韓国駐在は1993年までであったが、私は後任の駐在武官と協力し、白大将の叙勲を上申した。外務省からも強力に推薦していただき、後に実現した。また、1998年には、当時の藤縄祐爾陸上幕僚長が訪韓の折、白大将に対して直接感謝の言葉を述べられたとも聞いている。
日韓関係は、目下、憎しみが憎しみを生む負のスパイラルにある。しかし、両国が相争っては、何の益も生まれない。私は現在の文在寅政権の対日政策には大いなる疑問を抱いているが、「大きな御恩を頂いた白大将の母国・韓国を憎むまい」といつも自戒しているつもりである。
日韓関係が一日も早く、負のスパイラルから抜け出すことを念じてやまない。
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福山隆氏も参加した「文藝春秋」4月号の座談会、「『日韓断交』完全シミュレーション」では、元韓国大使の寺田輝介氏、韓国富士ゼロックス元会長の高杉暢也氏、同志社大学教授の浅羽祐樹氏、産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏が登場し、現実的な「日韓のあり方」を詳細に検討している。