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名古屋教育虐待殺人事件「中学受験で息子を殺された母親の無念」

「被告人もその父親から刃物を向けられていた」裁判傍聴記#2

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 プライバシーに配慮して、Mさんが証言台に立つときはパーテーションが置かれ、傍聴席からはMさんの姿は見えないようになる。しかしそのむせび泣くような声からは悲痛な表情が想像できた。

「もう一度チャンスをくれ」と言われて、受験をやめられなかった

 Mさんの証言によれば、佐竹被告はもともと暴力的な人間だったわけではない。息子のことを大切に思っていたことも間違いない。それなのに、なぜ、このような悲劇が起きたのか。7月5日の被告人質問の一部を抜粋する。

佐竹憲吾被告のマンションを調べる捜査員 ©共同通信社

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弁護人:あなたが持っていた包丁が崚太君の胸に刺さり、死に至らしめたことは事実ですか?
佐竹被告:事実です。
弁護人:どのように刺さったのですか?
佐竹被告:一連の動作のなかでどうなったかがまったくわからないという感じです。
弁護人:死んでも構わないと思っていましたか?
佐竹被告:そ、それは絶対にありません。
弁護人:なぜ包丁を持ち出したのですか?
佐竹被告:なんとかしなければいけない感じが先に立って。
弁護人:どうしようとしたのですか?
佐竹被告:ドライブのときのことを思い出してもらうため。怖い思いを思い出させようと思いました。
弁護人:プロの家庭教師を頼むとか、自主性に任せるとか、考えませんでしたか?
佐竹被告:自主性は、考えませんでした。「教えてくれ」と言われていたので。家庭教師も考えていませんでした。
弁護人:手を引けなかったのはなぜですか?
佐竹被告:中学受験をやめるならやめる。それでいいと思っていました。でも、「教えてくれ。もう一度チャンスをくれ」と言われて、やめられませんでした。
弁護人:包丁は結局崚太君の胸に刺さってしまいました。妻に対してどのように思っていますか?
佐竹被告:申し訳ないと思っています。
弁護人:あなたは崚太君にどうしてほしかったのですか?
佐竹被告:受験をやるならやる、やめるならやめる。いい学校に無理に入ってもいいことはないことは、自分のことでよくわかっていました。どうせ中途半端になるのなら、もっといっしょに遊んだり旅行に行ったりしたかった。