2016年8月21日名古屋で、当時12歳だった中学受験生が自宅で父親に刺殺された事件で、名古屋地方裁判所は2019年7月19日、被告人・佐竹憲吾(51)に懲役13年の実刑判決を言い渡した(裁判の詳細は#1、#2へ)。加えて裁判長は以下のように述べた。
「保護者である父親によって命を奪われた被害者の驚き、苦痛、かけがえのない一人息子を突然奪われた被害者の母親の悲しみ、嘆きは察するに余りある」
「犯行の動機、経緯を見ても、被告人は、中学受験の指導の名のもと、被害者の気持ちを顧みることなく、自らの指導・指示に従うよう、暴力的な言動から刃物へ、ナイフから包丁へ、やがては包丁を被害者の身体に当てるなど、独善的な行為をエスカレートさせていった挙げ句、本件犯行当日、被害者の態度にいらだちを募らせたすえに激高し、衝動的に犯行におよんだものと認められる」
どこにでもある『教育虐待』と同じパターン
佐竹被告は子煩悩な父親だった。被告人自身もその弟もその父親もみんな名古屋の超進学校出身だった。崚太君が同じ学校を目指して中学受験塾に通い始めると、佐竹被告が家で勉強を教えるようになり、そのころから暴言、暴力、威圧行為が始まる。被告人自身、「受験勉強が始まるまでの生活は楽しかった」と振り返る。
犯行当日の朝、崚太君が約束した時間に起床せず、朝食にも時間をかけ、たびたび急かしても反抗的な態度を見せたため被告人はいらだち、包丁を持ち出した。崚太君が部屋の隅に逃げ込むと、被告人は包丁で床を叩いて呼び寄せた。そして崚太君の背中に左腕を回して左肩をつかみ、右手に持った包丁を目の前にかざす。崚太君が泣き出すとさらにいらだちを募らせて、左手で口を塞いだ。気づくと崚太君の胸には穴が開いていた。被告人はあわてて崚太君を抱えて近くの病院に駆け込み、「刺してしまった」と述べている。
これは特異なケースなのだろうか。これまでさまざまな「教育虐待」の事例を取材してきた私にはそうは思えない。むしろこれは典型的な「教育虐待」であり、これまで私が取材してきた事例との符号点も多い。何が典型的なのか。