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 被告人席に着席している被告人はいつもまっすぐ前だけを向いて、ほとんど表情を変えない。感情が読み取れなかった。しかし証言台に立った被告人の姿からは、いたたまれない気持ちでいることが伝わってきたと同時に、ある種の覚悟のようなものも感じられた。どうにもぬぐいようのない呪いのようなものに取り憑かれているような感じも受けた。質問には自分の言葉で誠実に答えていたが、いかんせん何事も「ゼロか百か」なのである。

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「パパに憧れて、褒められたくて、認められたかった」

 2019年7月11日の法廷では、被告人の妻Mさんは以下のように述べた。

<崚太と被告しかいないところで命を奪われた。被告は話せない。だから何もわからない。

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 私には被告が崚太を怒鳴りつけ、押さえつけ、突き刺した瞬間が浮かんでなりません。

 できるなら被告にも崚太と同じ思いをしてほしい。でもいちばんは、崚太が帰ってきてほしい。8月21日から止まったままです。

 被告は、崚太が自分から受験すると言い出したかのように話しますが、パパからの話を聞いて、パパに憧れて、パパに褒められたくて、パパに認められたかったからのはず。被告は「やめさせたかったが、崚太が続けたがった」と言いますが、勉強をやめたいと言えないような空気だったからではないでしょうか。ドライブレコーダーの声を聞けばわかります。

 事件のあと、刃物でえぐられた机、傷ついたノート、プリント、教科書を見ました。ホワイトボードには戦国武将の名前と、崚太の文字で「お願いですからT中学校に合格させてください」と書いてありました。つらくてやりきれない。

 崚太は「どうしてパパは僕を傷つけたの?包丁を突きつけたの?」と何度も思ったのではないでしょうか。自分を守ってくれるはずのパパに命を奪われた崚太はどれだけつらかったか。私はやりきれません。

 髪が抜けていると気づいた夜、どうして強く家から出ようとしなかったのか。8月末まで出ようとしなかったのか、悔やんでも悔やみきれない。このとき、刃物で脅しているなど、気づいていれば、崚太を引っ張ってでもあの家を出ていた。逃げ出せばよかったといまでも思います。

 精神科医の先生の話で、被告は記憶に蓋をせねばならぬほど、崚太を殺してしまったことによるショックを受けたとわかりました。いまも後悔しているという被告の言葉は本当だと思います。崚太が死ぬのを望んでいなかったというのも本当だと思います。でも、包丁を崚太の体に突きつけ、崚太の心臓に達し、崚太のいのちを奪ったことに変わりはありません。

 あなたは崚太の気持ちがわからなかったかもしれないけれど、崚太は間違いなくあなたの心に寄り添ったことを忘れないでください。>

 次回#3では、被告人の家族にどのような情動的やりとりがあったのか、心理カウンセラーとしての視点から論じる。

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