男性よりも不眠や過労に悩む女性に多い
一方の中枢神経の変調による痛みとはどんなメカニズムなのか。片平院長が続ける。
「例えば大きなストレスを感じると、脳ではカテコールアミンという神経伝達物質が増えていき、これが歯の周囲の血管に悪さを働いて痛みを起こすこともある。また、脳の神経回路にも異常をきたすので、痛みへの感受性が高まり、本来は痛みではないものを痛みとして感じたり、大した痛みでもないのに激痛として認識してしまうことにもなるようです」
片平院長の外来にも、非定型歯痛の患者は一定数訪れる。傾向を分析すると、男性よりは女性に多く、ストレスの原因としては不眠や過労を訴える人が多いという。
ストレスが原因であれば”意外な薬”が効果を発揮することも
歯に原因がない痛みなので、歯の治療をしても痛みは引かない。そもそも歯に異常がないのだから治療のしようもないのだが……。
ならば痛み止めの薬を使うとどうかというと、これもほとんど効果は期待できない。ただ、鎮痛薬ではない薬に、意外な効き目が現れることがあるという。
「ストレスから歯の痛みを感じている人にはうつ症状が出ていることが多いので、抗うつ剤や抗不安薬、あるいは興奮した気持ちを落ち着かせる漢方薬などが効果を示すことがあります。ただ、根本的なストレスの原因を取り除かないことには根治は難しい」(片平院長)
さらに運が悪い人もいる。精神的なストレスを抱えている患者が歯科医院に行ったら、本当に虫歯が見つかってしまったようなケースだ。この場合は当然虫歯の治療を行うのだが、虫歯と一緒に非定型歯痛を併発していると、治療で虫歯は治せても、痛みはそのまま残ってしまうのだ。しかも、虫歯治療の刺激がトリガーになって、過去に経験した痛みを再現することがある。
「まだ痛む」「もう治っている」「そんなはずはない」「いやきれいに治っている」という押し問答が続き、治療は長期化。患者は難民化し、歯医者さんのほうがそのストレスで歯痛になる――という負の連鎖まで生みかねないのだ。