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「写真じゃない!?」”見ること”への追求で生まれたリアルなふわふわクッションに触れたい

アートな土曜日

2019/07/27
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「見ること」に対する飽くなき興味が作品を支える

 伊庭靖子は版画の制作から創作の道へ入り、やがて油彩画を描きはじめた。モノをクローズアップしてディテールを描き込む手法は長らく続いており、画面は質感の探究の場であるとともに、端的にひたすら美しい。

伊庭靖子 制作風景

 今展では50点超のうっとりする作品を観ることができるのだけれど、そのなかには版画へと回帰した作品もある。ため息が出るほど微細な描写がなされた風景画だ。その細かさが独特の質感を生んでおり、たしかにこれだけ濃やかな表現は油彩では難しく、版画手法ならではの効果が実現されている。

伊庭靖子、grain #2018-2、シルクスクリーン・紙、Courtesy of Gallery Nomart

 さらには、新作の映像作品もお披露目されている。ステレオグラムと呼ばれる、立体視ができる映像で構成された異色作。意外な方向への展開とも思えるが、「見ること」に対するアーティストの飽くなき興味がつくらしめた作品なのだろうと考えれば、深く納得がいくのだった。

伊庭靖子、depth #2019(ギャラリーノマルにて、2019 年)© 植松琢麿
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