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プロ17年目、35歳の雄平はなぜ「#雄平かわいい」と言われるのか

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/07/31

自らサインをしてくれるナイスガイ

 実は、僕自身も「雄平かわいい」を実感したことがある。あれは数年前、雄平にインタビューしたときのことだった。インタビュー前日、僕はベンチ内での彼の表情や態度をチェックしたくて、一塁側ベンチがよく見える三塁内野席から双眼鏡を片手に試合観戦をしていた。まるで野球少年のように、「野球をすることが楽しい」という雰囲気で、ベンチ内で楽しそうにしている雄平。その表情は実に多彩で、見ていて飽きないほどだった。

 彼が打席に入ったときのこと。偶然にも、雄平の放ったファールボールが、僕のもとに飛んできたのだ。そのボールをキャッチした僕は、「明日のインタビューは、この件を導入に使おう」と、意気揚々と翌日の取材に臨んだ。インタビュー開始直後、「実は昨日の試合で、偶然にも雄平選手のファールボールをキャッチしたんです」とボールを手渡すと、雄平は破顔一笑で、「それはすごいですね!」と言ってくれた。僕は内心で、「これでツカミはOKだ」と思いながら、取材を始めようとした。

 しかし、事態は予想外の方向に展開する。僕が質問をする前に、雄平は饒舌に語り始めたのだ。彼は僕に、「このボールはどの打席でのファールですか?」と逆質問をしたのだ。僕が「第三打席の3球目、三塁内野へのファールでした」と答えると、雄平は身振り手振りを加えながら、さらに饒舌になった。

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「あぁ、あの打席ですね。あれはちょっと差し込まれたんですよね。本当はこうやって打たないといけないのに、ついこんな打ち方になって、三塁側に飛んだんです。そうなんですよ、本当はこう打つべきなのに、ついつい、こんな打ち方になってしまったんですよ。というのも、その前の打席で……」

 試合前だったので、取材時間は限られていた。内心では「早く本題に入りたい」と思いつつ、バットを振る構えをしながら、熱心に説明を続けている姿を見て、「そろそろ取材を始めたいのだけれど……」という思いは吹き飛び、僕は初めて「雄平かわいい」を実感することとなったのだ。ひと通り説明が終わると、雄平は言った。

「せっかくなので、記念にサインをしましょう」

 こちらからお願いすることはあっても、選手自ら「サインしましょう」と言ってくれたのは、後にも先にも雄平だけだ。このボールは今でも僕の仕事場に大切に飾ってある。

仕事場に大切に飾ってある雄平のサインボール ©長谷川晶一

 あれから数年が経ち、今年行ったインタビューの最後に、雄平は言った。

「先ほども言ったように、自分はまだまだ上手になると思っています。だから常に、自己最高記録を更新するのが目標。歩みは遅いかもしれないけど、打率、打点、ホームランなど、すべての分野でキャリアハイを更新したいし、できると思っています」

 雄平の言葉は力強かった。現在は代打起用が多くなっているものの、チームが苦境にあるときこそ、ベテランの存在感は増す。チームは最下位ではあるけれど、8月の逆襲のためにも、CS(クライマックスシリーズ)進出のためにも、雄平の力は絶対に欠かせない。その日が来るまで、雄平は研鑽を積む。たとえ歩みは遅くとも、雄平は僕たちファンに、さらにパワーアップした姿を見せてくれることだろう。そのときには、さらに多くの「#雄平かわいい」がSNS上にあふれることだろう。僕はそう確信している。

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