文春オンライン

2019/07/30

「球数は何球だと壊れない」というエビデンスはあるか

 岩手大会決勝戦から2日たった7月27日、東京・大手町にある日経ホールにて「SPORTS X Conference 2019」が開催された。スポーツに関わるあらゆる分野の方達が、スポーツの魅力を伝えていくものだが、2日間あるうちの1時間を利用して、「100球制限は必要なのか。――科学とリアルから考える」と題したセッションがあった。

 国学院大学の准教授でバイオメカニクスの博士・神事努氏(ネクストベース社)が講演を行い、そのあと、識者を集めてのディスカッション。集まったのは神事氏のほか、「投手の障害予防に関する有識者会議」のメンバーである整形外科医の渡辺幹彦氏(東京明日佳病院院長)、元沖縄水産の投手で甲子園準優勝の実績がある大野倫氏、元慶應大学野球部の助監督・林卓史氏だった。

 僭越ながら、そのディスカッションのモデレータを務めさせていただいたのだが、このセッションでは、当然、佐々木のことも議題に上がった。

 高校時代に甲子園で準優勝した直後の検査で疲労骨折、靭帯損傷、遊離軟骨などの症状が発覚したという大野氏は「大船渡の佐々木くんの起用法は、高校野球が変わった瞬間なのだと思います。プレイヤーズファーストを、いよいよ、高校野球が考えないといけない」と語った。渡辺氏も「高校野球の監督もプロフェッショナルな意識を持つ。結果を気にせずに過程を大事にする監督さんが出てきたなと思った」と評価した。

 また、渡辺氏によると、「球数は何球だと確実に壊れない」というエビデンスが確立しているわけではないのだという。だからこそ、海外では「球数100」という一定の線を引くことで予防をしているのだが、一方で、日本は、エビデンスが存在しないのをいいことに、登板過多を繰り返してきたというのが現実なのだ。

「エビデンスがないのは、実験ができないから。研究する過程にあって、壊れるまで待つわけにはいかない。(日本の今の状況は)壊れるのを待っている状態と言えるのかもしれない」と神事氏は筆者の取材の中でそう話していた。

国保監督の決断をどう評価すべきか

 佐々木が4回戦で投じた194球は異常な数だと思う。

 国保監督は避けたかったが、それができなかったから、194球の重みを念頭に置いてその後の佐々木の登板のマネージメントをしたという事なのである。

 もっとも、国保監督のような考えを持っている指導者は全国にほとんどいない。大会中に多くの球数を投げた投手の疲労を考慮に入れないままに登板を回避しないケースは、全国、どの地区にもある。実際、沖縄県大会決勝では、準決勝からの連投となった興南のエース宮城大弥投手が延長13回を投げきり、投球数が229球にも達したと聞く。

 旧態依然とした指導や起用法を続ける彼らの判断を正しいと見るのか、国保監督の決断を正しいと評価するのかは、これからの野球界にとって、大きな意味を持つだろう。

 個人的な意見を言わせてもらえば、国保監督のような大英断はいずれ誰かがやるだろう、誰かにやってほしいとは願っていた。

 ただ、その大英断を下したのが、逸材をたくさん集めることができて選手層の厚い私学の強豪校ではなく、岩手県の普通の県立高の指揮官だったというのは、いかにも、今の高校野球界の現状を象徴しているような気がしてならない。

「疲弊して、打たれて、マウンドでうずくまって、甲子園で散る。それは感動ではなくて同情です。僕が、小さい頃、清原さんのホームラン、伊良部さんの豪速球を見て、すごいと思った。甲子園で見たいのは、165キロを連発する大谷くんのようなプレーであって、130キロしか投げられなくなった投手が打たれる姿ではない。ベストパフォーマンスのプレーが人々を感動させるのだと思う」。

 今も右腕をまっすぐに伸ばすことができない大野氏の言葉が私学の監督たちに届いてほしいと願うばかりだ。

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