いま、ホークスは3つの球場を所有している。一軍本拠地の「ヤフオクドーム」。ファーム公式戦を行う「タマスタ筑後」。そして「ホークススタジアム筑後第二」だ。
ホークススタジアム筑後第二――福岡市からクルマで南へ約1時間、新幹線ならば博多から最短24分(おおよそ1時間に1本のダイヤだが)の場所にあるファーム施設「HAWKSベースボールパーク筑後」まで足を運ぶ熱心なファンの方はご存知かもしれないが、知らない人の方が多数派だと思うし、実際に見る機会はあまりないだろう。
もともと福岡市東区の雁の巣にファーム本拠を構えていたが、3年前の2016年に筑後市へ移転した。わざわざ場所を移した理由は様々だが、大きな要因の一つは三軍の練習場所の確保だった。
「日本一の練習環境」として作られた筑後第二球場
2011年に導入された三軍制は、ホークスの「選手育成」の象徴だ。“育成の星”である千賀滉大や甲斐拓也はもちろん、柳田悠岐だって入団1年目は三軍でプレーしたことがある。ただ、以前本拠地だった雁の巣には球場が1つしかなかったため、二軍が公式戦や練習で使用する際に三軍は近くの大学のグラウンドや福岡市外の野球場をその度に間借りするしかなく、しっかり腰を据えて練習に励むことが出来なかった。
そのため、ファーム新本拠地を公募する際にはメイン球場に隣接するサブグラウンドも建設することが前提で、土地は4万〜6万平米以上という条件が付いていた。
筑後市の敷地は約7万平米だ。球団関係者によれば「もともとは野球場でなく総合グラウンドでもいいと考えていました。しかし、それだけの土地が確保できたので球場を造ろうという声が上がったんです」と振り返る。
そのような経緯で誕生した「ホークススタジアム筑後第二」は両翼まで約100メートル、中堅まで約122メートルとヤフオクドームと同規格のグラウンドを持つ。当初観戦スペースはなかったが、現在はネット裏に小規模ではあるが設けられている。
また、この筑後第二球場は内野が土、外野は天然芝のグラウンドだ。
タマスタ筑後はファーム公式戦を興行として開催するために、雨に強い人工芝が採用された。一方で筑後第二球場は三軍を中心とした若手が練習をメインで使用するし、リハビリ中の選手もランニングなどを行う。体への負担の少なさも考慮された。
特に内野手の練習については土のグラウンドの方がより上達が見込める。イレギュラーする打球への反応。さらに打球の勢いが弱まるので一歩前へ出る姿勢もそこで身につく。積極的なプレーを習慣づけ、反復練習による上達でミスを少なくすることを体に覚え込ませるのはやはり土のグラウンドだ。
そして、この筑後第二球場の土と芝。球団は「日本一の練習環境をつくる」と力を入れる。練習用にもかかわらず最高のグラウンドを作り上げている。それは、あの甲子園球場とほぼ同じという素晴らしい環境なのだ。
福岡出身“元阪神園芸”の存在
なぜ、筑後第二と甲子園がイコールで結ばれるのか。
じつは、筑後のグラウンドの整備・メンテナンスの“リーダー格”を任されている西山修平さんは、2016年までの5年間、甲子園球場のグラウンドを管理する「阪神園芸」に勤めていたのだ。
「もともとこの世界に入ったきっかけはホークス。アルバイトとして5年間、雁の巣球場でグラウンドキーパーとして働いたのちに、阪神園芸さんにお世話になったんです。そして、筑後に施設が出来たことで声を掛けて頂き、もともと福岡出身ということもあり戻ってくることを決めたのです」
甲子園球場のグラウンドは日本で一番美しいとも評される。また、2017年のクライマックスシリーズの時のように、たとえ雨が降っても素早く正確なグラウンド整備で「奇跡」のようなコンディションに回復させる技術は、野球ファンの間では語り草になっている。
西山さんはまだ30代前半と若いが、技術も知識も一目置かれる存在だ。
「土や芝、トンボのかけ方まですべてに拘りがあります。たとえば野球場のグラウンドは黒土と砂が混合されているのですが、甲子園は季節によってその割合を変えています。夏場は水持ちをよくするために黒土を多めにしたりします」
一口で黒土と言っても、その産地によってグラウンドの特性が大きく変わる。じつは筑後に赴任した当初には一つ問題が生じた。