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周囲の反対の声を押し切る形でとった行動とは

「球団からも『甲子園のようなグラウンド作りを』と期待してもらったのですが、産地が違っていたのです。甲子園は、鹿児島の志布志のものを使用しているのですが、筑後は同じ鹿児島でも鹿屋の黒土でした」

 前者はさらっとした感じだが、後者は粘り気のある質感になる。その時、西山さんは一つの賭けに出た。

「第二球場が開場する前の年の1月に、わざと砂を全面に撒いて自分で掘り返して配合を変えたんです。周りからは反対の声も挙がりましたが、押し切る形でやりました」

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 結果的にそれが奏功した。じつは今回のコラム用に取材をして撮影をした前日には、筑後地方で100ミリ近い大雨が降ったのだ。この日は三軍が遠征中で選手たちが使用する予定がなかったが、たった1日でノックなどを行えるだけの状態に回復していた。

「グラウンドの状態は、その日の気候、温度、湿度などによって日々違います。朝、グラウンドに来てまず感触を確かめて整備の仕方を考えています。土も難しいですが、芝生の方もこだわっています。自分の中の100点に辿り着けないから大変です(笑)。また、3日に1回はスマホで撮影して変化を確認したり、雨量のデータも残していたりしています」

筑後のグラウンドの整備・メンテナンスの“リーダー格”を任されている西山修平さん ©田尻耕太郎

グラウンドへの向き合い方で分かる選手の良し悪し

 西山さんも高校途中まではプレーヤーとして夢を追っていた。「子供の頃はやっぱりプロ野球選手になりたかったけど、そこに関わることができている今は嬉しい」。また、西山さんによれば、選手のグラウンドへの向き合い方で、その選手の良し悪しが分かる基準があるという。

「やっぱり守備の巧い選手の足元はキレイなんです。自分の足でちゃんと均しています。怪我やエラーのリスクを自分で減らすようにしているんですね。阪神園芸時代に見ていた鳥谷選手や大和選手はそうでした。高校野球でも、強い学校は守備に就くときに定位置は走らない。弱い学校ほどサードやファーストの守備位置をそのまま突っ切っていきますからね。自分で自分の首を絞めているのに」

 甲子園級のグラウンドで育まれる若鷹たち。たとえば横浜高校から入団2年目の増田珠はプロ入り後に外野から内野手に転向。この筑後第二で泥だらけになって練習を繰り返し、今季は二軍のレギュラー格へと成長した。守備も三塁のほかに二塁も守れる貴重なユーティリティ性を兼ね備えている。増田は「西山さんが阪神園芸で働かれていたのは知っています。第二球場のグラウンドはいつも綺麗で本当にありがたいです」と話す。今年のルーキーでは早実からプロ入りした野村大樹がやはり複数ポジションを守れるようにと毎日必死に頑張っている。彼もまた、このグラウンドによって成長を遂げていくはずだ。

プロ入り後に外野から内野手に転向した増田珠 ©田尻耕太郎

 一般ファンはなかなか立ち入れないが、HAWKSベースボールパーク筑後の「施設内見学ツアー」でグラウンドと同じ土や芝生に触れることが出来るようになっている。今年の8月はヤフオクドームでの一軍戦が7試合だけと少々寂しい日程になっているが、タマスタ筑後では二軍公式戦が13試合に加えて三軍戦も4試合が組まれている。酷暑対策をばっちりして、未来のホークスを背負って立つ若鷹たちの応援に足を運んでみるのはいかがだろうか。

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