それはお盆休みを過ぎた8月21日のことである。秋の気配が近づいている。ファイターズはメットライフドームで対西武20回戦を戦い、6対11で敗れた。勝ち投手榎田、負け投手加藤。不調と聞かされていた山川穂高に36号、37号を食らっている。ファイターズで良かったことを探すと、中田欠場の穴を埋めるべく4番に据えられた清宮幸太郎に4号ソロが飛び出したことだ。待望の「4番初ホームラン」だった。

 といって同じ日、ヤクルト村上宗隆は29号ソロを放ち、高卒2年以内の記録で清原和博を超える単独2位の84打点をマークしている。同期の和製大砲は大きく差がついてしまった。僕は「村上すげぇ〜」などとつぶやきながらネットの野球記事を眺めていた。ヤクルトは順位的には苦しんでいるけど、村上が本格化したシーズンだもんなぁ、夢がふくらむよと、つい順位表を見たのだ。

僕らが迎えた次の「ハム肉薄」

 ギョッとした。

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 パ・リーグの順位表まで目に入ってしまったのだ。考えてみたら8月の途中からまったく順位表を見なくなっていた。ていうか記事もあんまり見なくなっていた。理由は簡単だ。人間だもの。つらいことは避ける。傷つくことからは逃げる。見たら凹むとわかっていて、わざわざ見て凹む必要あるだろうか? 

1、ソフトバンク 63勝48敗4分 
2、西武     59勝53敗1分 4.5
3、楽天     55勝54敗4分 2.5
4、ロッテ    54勝57敗3分 2 
5、日本ハム   53勝56敗5分 0
6、オリックス  52勝56敗5分 0.5
(2019年8月21日22時17分更新)

 凹むとか凹まないとかじゃなかった。うほー。うっほー。全身に血がめぐる。最下位オリックスに0.5差。うっほー。

 これはアレだ、例のやつだ。「ハム肉薄」。つい先月31日、首位ソフトバンクに0.5差に迫り、「肉薄」という語感がハムっぽくて大好きだと君に打ち明けたっけ。君は「ハム肉薄」の字面に大笑いしてくれた。その「ハム肉薄」から21日たって、僕らは次の「ハム肉薄」を迎えていたってわけなんだ。

7月31日の「ハム肉薄」。筆者はその超うす切りっぽいハム感に酔いしれた。 ©えのきどいちろう

 「ハム肉薄」から「ハム肉薄」へ。ちょっとファイターズの8月の成績を見える化してみよう。

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 ↑別にここで段落を区切ったわけじゃない。そう見えても仕方ないが星取表だ。2勝14敗1分だ。お盆の9連敗が痛かった。ちなみに8月13日は僕の60歳の誕生日だったが、まさに9連敗の真っ只中であり、東京ドームで1対6の負けを見つめている。

誕生日は9連敗の真っ只中。だが、この日、清宮幸太郎が初めて4番スタメンを務めた。じーん。

「首位に肉薄」から「最下位に肉薄」へ。こんなことってあるだろうか。

パのすべての順位に「肉薄」するという離れ業

 90年代、ファイターズは2度ほど夏場の大失速で首位から転落し、リーグ優勝を逃したことがある。あの頃は毎夏、都市対抗の時期に東京ドームが使えず、「死のロード」を余儀なくされた。長い遠征から帰ると選手が皆、ぐったりしていたものだ。あのときも大概だった。夏は大失速と相場が決まっていた。が、これほど順位は落とさなかった気がする。

 ひとつ考えたことがある。もしかすると僕が気づいていないだけで、2位3位4位5位にも「肉薄」していたのではあるまいな。だとすれば「ハム肉薄イヤー2019」である。パのすべての順位に「肉薄」し、ハムっぽさを強烈にアピールするという離れ業をやってのけ、2位3位4位5位は地味なのでスルーされてるのではあるまいな。

 だいたい「最下位に肉薄」って、フツーは下から迫ってくるから「肉薄」なのだ。上から迫るやつがあるか。猛烈な勢いで順位を下げたもんだから、つい向きが逆の「最下位に肉薄」になってしまった。

 こうなると難しいのはチーム目標をどこに置くかだ。あらためてソフトバンクを追いかけるのか、Aクラス浮上なのか5割復帰なのか、はたまた最下位だけは回避なのか。ちょっと前までけっこう本気で「首位奪取」と思ってただけに困るのだ。振り上げた拳のもって行き場がないというか、その手で頭でもかくしかない状態だ。

 〇○○○〇〇〇〇 〇〇〇〇〇〇 〇〇〇〇〇〇

 これは段落を区切った。せっかくだから白丸で区切った。この間に1日が経過し、甲子園で履正社が初優勝し、ファイターズは渡邉諒、清宮の効果的なホームランで勝利した。何と「8月ナイター初勝利」だ。そんなバカなと思うが本当だ。ありがたいことに4位浮上である。5位ロッテに1差、最下位オリックスまでは1.5差。まぁ、ダンゴレースだ。2位も見える。最下位も見える。