ジャニーズの基本姿勢は「お客様は神様です」
矢野 そのダサいと言われていたものにちゃんと向き合っている数少ない人の中のひとりが近田さんだった、みたいなイメージが僕にはあるんです。影響というとおこがましいですけど、自分が感銘を受けたのはそういうところでした。
近田 僕がそういう意識を持つようになったのは、ソウルミュージックの影響なんだよね。1970年にアイク&ティナ・ターナーが来日して、赤坂のMUGENというお店で演奏したんですよ。
見に行ったらさ、とにかくサービス精神の極致みたいなライブなわけ。演奏はレコードと寸分違わず、でも普通のロックバンドなんか手が届かないぐらいの達者な演奏で、何度見ても同じことをやっている。そこに逆にものすごくロックを感じたわけ。
それともうひとつはシャ・ナ・ナだね。彼らもある意味で「ロックの本質はもともとショービズだったじゃん」って批評として音楽をやっていたような気がする。
――ヒッピー全盛の60年代末にオールディーズを甦らせたインテリバンドですよね。
近田 ロックってよくも悪くもステージ上の人がいちばん偉いけどさ、ショービズは基本的に「お客様は神様です」っていう考え方じゃない。
ジャニーズも「俺たちは商売でこれをやっているんだから、お金を払ってくれたお客さんに全身全霊で尽くすべきだ」という意識を、今も昔も強く持ち続けている気がするのね。
ロックの人たちはその精神に反発して、「聴かせてやるぜ」みたいな気持ちで自己中心的にやっていた。
俺の場合は、サウンドはロックだけどステージに立つときの意識は商売だから、ロックの人たちからは「客に媚を売って……」みたいに思われて、ショービズの人たちからは「ロックの人はよくわからない」とどっちからも冷たく扱われるという、えらい目に遭ったよね(笑)。それが楽しくてやっていたんだけどさ。
――近田さんは「ロックはダンスミュージックだ」とも言っていて、音楽雑誌が「知的」と評価するようなロックを「あれはフォークだ」と主張していましたよね。
矢野 僕はビートルズにずっと苦手意識があるんです(笑)。エルヴィス・プレスリーは好きなんですけど。
近田 俺も好きだよ。
矢野 踊れるから。ビートルズも聴きますけど、踊れないのがちょっと。
近田 フォークだよ。だって別にエレキじゃなくてもいいんだもん。
矢野 日本のロックにはビートルズの影響がすごく大きいけど、ジャニーズにはそれが少ないのが、たぶん自分の好みに合うんですよね。THE GOOD-BYEってどう思いますか?
近田 ヨッちゃん(野村義男)? 君はどう思うの?
矢野 ヨッちゃんのバンドなので、最初はハードロックかなっていうイメージがあったんですけど、意外と重要なのはヤッチン(曾我泰久)のほうなんだなって。
ヤッチンさんは70年代半ばにリトル・ギャングのメンバーとしてデビューして、いろんな人たちのバックを務めたりしていた人ですけど、ライナーを読むと大瀧詠一フリークなんですよね。
アルバムを聴くと大瀧詠一っぽいというか、ちょっとフィル・スペクターを意識した曲があって。そういう曲はすごく好きです。