昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

谷川俊太郎の詩と「名もない写真」で観察する”すべてが肯定された世界”とは

アートな土曜日

2019/08/03

 まだ言葉を持たない幼女の愛らしさを撮った『未来ちゃん』や、台湾の若い男女の姿を瑞々しく写真に収めた『明星』などの作品で知られる写真家・川島小鳥が個展を開催中だ。東京・品川にあるキヤノンギャラリー S での、「まだなまえがないものがすき」展。

谷川俊太郎の詩とコラボレーション

 暗がりの空間の壁面に大小さまざま、無数の写真がランダムに貼られている。浮かび上がるように見えてくる画面に写っているのは、路傍の草花や駅のホーム、喫茶店のショーケースに、ソファへ身を預ける赤ん坊……。何の変哲もなさそうな、よく見かける光景の数々だ。

 
 

 端的に「日常写真」と呼んでいいだろうか。ふだんは明確に定めたひとつの被写体を追うことの多い川島小鳥が、ここでは対象を定めずに撮った写真ばかりを集めている。日ごろからカメラを持ち歩いている川島は、少しでもハッと心を惹かれたものに出逢うとシャッターを押す。たいていは撮ったことすらそのまま忘れてしまうのだけど、今回はそうした何でもない写真を集めて、何でもないことにかたちを与えてみようと考え、展示を構成したという。

 写真群の合間を縫うようにして、あちらこちらに詩も掲げられている。こちらは詩人・谷川俊太郎によるもの。以前にも写真・川島小鳥、詩・谷川俊太郎で『おやすみ神たち』という本をつくっており、親交があるのだ。日常からささやかなものを掬いとることで築かれる、易しくて優しい作品世界。両者にはそんな共通性があることから、今展でもコラボレーションが実現した。ひらがなだらけで印象的な展名も、谷川俊太郎が紡いだ詩「どうでもいいもの」の一節からとられたものである。