佳子さまの発言が照らした「公人とプライバシー」の問題
堀北真希を思い出した。俳優の山本耕史と結婚、現在は引退している。皇室の話と芸能界の話を一緒にするなという指摘は承知の上だが、「公開するプライバシー」への線引きという意味で、軽く衝撃を受けたのだ。2016年、第一子を出産直後、彼女の事務所が発表したのは「母子ともに健康。性別など詳細を発表する予定はありません」だった。生まれた子が男の子か女の子か知らせない。最近ではよくあることだが、走りは彼女だったのではないかと思う。びっくりした。山口百恵ちゃん世代だからだ。
山口百恵という人は、芸能界を既に引退していたにもかかわらず、第一子出産後、カメラの前に立った。夫の三浦友和と並び、長男を顔が映る角度で抱いていた。1984年、引退から4年も経ってからのことである。なぜそうしたのかは、知る由もない。芸能界にも世間にも、まだ「芸能人=公人」という意識が強かったのだろう。
皇室と芸能界。まったく異なる世界であるが、敢えてここで触れたのは、皇室における「公開するプライバシー」のあり方が、社会の動きと重なっていることを明示したかったからだ。佳子さまのお言葉は、美智子さまや雅子さまの時代と比べると隔世の感がある。言い換えれば、美智子さまと雅子さまの時代は、「公開するプライバシー」を自ら線引きすることが叶わなかった。
スリーサイズを書かれた美智子さま
正田美智子さんと皇太子さま(当時)の結婚が発表された1958年11月、メディアは正田さんのさまざまな「横顔」を報じた。中に、こんな記述がある。
「一メートル六十一センチ(五尺三寸)、五十キロ、中肉中背、スポーツ好きで健康そのもの」(朝日新聞号外)
「一家大柄の血をひき、身長一六〇センチ余、体重五〇キロ強、均整のとれた肢体である」(毎日新聞特別夕刊)
「子供のころひ弱だった美智子さんもスポーツですっかり鍛えられ、いま身長一メートル六十、体重五四キロ、バスト八〇、ウエスト五八・八、ヒップ九一・二五センチの立派な体格」(読売新聞夕刊)。
それぞれ少しずつ数字が違うのは、ニュースソースが違うのだろうか。それにしても、現代からみれば、「おいおい、バスト八〇って」である。
だが元新聞記者として想像するのは、当時の男性記者(間違いない、全員男性だ)は皇太子妃になる人の「健やかさ」をアピールしたかっただけだと思う。「戦後」の空気もあったろうから、「大柄」や「立派な体格」はプラスイメージだったろう。そういう人が、皇太子妃になる。善意の報道だったはずだ。
小和田雅子さんのプロフィールは身長だけに
それから35年。小和田雅子さんが皇太子さまと結婚することが決まったのは、93年だった。宮内庁から報道用に配布されたプロフィールにあった身体情報は、身長だけ。各メディアが発表された数字を報じ、朝日新聞は「皇太子さま163センチ、雅子さん164センチ」と書いている。