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2019/08/07

あだち作品に見られる旬な高校球界の話題

 たとえば2000年代以降の高校野球のトピックのひとつに、共学化した元女子校の野球部の活躍が挙げられる。先がけは遊学館(石川)だったが、夏の甲子園初出場は2002年。創部2年目、1、2年生のみでベスト8まで勝ち進んだ戦いは大きなインパクトを残した。その3年後、2005年に始まった『クロスゲーム』には、創部2年目で1、2年生のみの元女子校という霧ヶ丘西というチームが登場する(『クロスゲーム』第8巻「何はともあれ」)。また『クロスゲーム』および同時期に始まった『アイドルA』には、女子野球選手でもあるヒロインが登場するが、女子高校野球の第1回硬式野球選手権は1997年である(もっともマンガの女子野球選手という意味では水原勇気という先達がいるが)。

 そして、現在連載中、『タッチ』の舞台であった明青学園の今を描く『MIX』では、『タッチ』で明青学園のライバルであった須見工が、「健丈」と校名を変えて登場している。これも強豪だった商業高校や工業高校が、時代のニーズに合わせた普通高校への改編や少子化などを背景にした学校統廃合により、新たな校名で甲子園に出場してくる昨今をきっちりと抑えている印象を受けた。

 また、『MIX』では明青学園中等部からストーリーが始まるため、中学軟式野球の描写もあるが、その大会システムの解説もしっかりしている。

「全国中学校軟式野球大会(全中) そのスタートは東京都を12ブロックに分けて戦われる(※以降、解説が続く)」(『MIX』第1巻P159「だったら何で?」より)

 全中!!!

 アマチュア野球マニアのみなさんには説明不要だろうが、中学軟式野球の全国大会は、中体連主催で学校の野球部が覇を競う「全中」と、クラブチームや地域選抜チームも参加する全日本少年軟式野球大会、通称「全日本」が2大メイン大会。「(全中)」は、そこまで理解しているからこそ使用されている言葉といえよう。やはり、あだち先生のアマチュア野球に対する姿勢は真摯だ。解説の最後は「……だそうです。」で締められているのだが、その奥ゆかしさもまた、あだち先生らしい。

 高校野球をはじめとするアマチュア野球の情報は、インターネット普及以降、格段に集めやすくなり、中学野球も2000年代からは専門誌も創刊され、根尾昂(大阪桐蔭—中日)のように、硬式・軟式問わず、逸材と呼ばれる中学生が、どの高校に進学するかが話題にのぼることも増えた。スカウティングは高校野球のチーム強化において、いっそう欠かせない要素になっている。『MIX』の中学野球の描写には、そんな時代背景も(勝手に)感じている。

「あだち充の高校野球関連の作品は野球マンガではない」

 それを間違いだとは言わない。

 だが、だからといって、あだち先生が高校野球をライトファンレベルで描いているわけではない。舞台設定という視点で見れば、高校野球マニアも納得するレベルで、最新事情を把握し、作品に用いている。

 もし、あだち先生の高校野球作品を食わず嫌いにしている野球関係者がいたら、ぜひ一度、それを踏まえて読んでみてほしい。夏の甲子園、お盆、夏休み。名作に親しむにはぴったりの季節である。

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