怪談のたぐいは夏にかぎる。日本ならではの怪異な存在、妖怪たちの活躍をたっぷり観て回れる展覧会が開催中だ。千葉県佐倉市・国立歴史民俗博物館で開催中の「もののけの夏 −江戸文化の中の幽霊・妖怪−」。

三代歌川豊国「東海道四谷怪談 蛇山庵室の場」国立歴史民俗博物館蔵

江戸っ子が「納涼」を求めて行き着いた“怖いもの”

 庶民文化が大きく花開いた江戸時代後期のこと、人々の人気と話題をさらったのは、妖怪や幽霊などを描いた絵巻や錦絵だった。現代ほどではないにしても、江戸の夏だってやっぱり暑かったはず。一服の清涼を求めて、皆が怖いものに触れたがったのだった。

歌川国芳「源頼光公館土蜘作妖怪図」大判錦絵3枚続 天保14年(1843) 国立歴史民俗博物館蔵

 当時大流行した妖怪ものが「百鬼夜行図」である。想像力の及ぶかぎり、ありとあらゆる姿かたちをした妖怪が、列をなして続々と現れ出てくるさまを描いてある。それぞれの表情も豊かで、強烈な個性を発揮している。怖いことは怖いのだけれど、それにも増してこれを描いた者のイマジネーションの豊かさに圧倒されてしまう。いや、当時はこれらの妖怪がどれもおなじみだったのかも知れず、ならば江戸の人たちのたくましい想像力に感嘆する以外にない。

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 今展では狩野洞雲益信による《百鬼夜行図》が観られる。細部までよく描きこまれた妖怪たちは、妙な言い方になるが人間くさくて、なんとも親しみが持てる。

狩野洞雲益信「百鬼夜行図」(部分) 紙本着色一巻 貞享元年(1684)以前 国立歴史民俗博物館蔵
狩野洞雲益信「百鬼夜行図」(部分) 紙本着色一巻 貞享元年(1684)以前 国立歴史民俗博物館蔵

 美人画で知られる浮世絵師、喜多川歌麿による《化物の夢》もある。悪夢を見た子どもをあやす母親、その上部には夢の中の光景が描かれていて、首長の見越し入道らの姿が。妖怪たちがいかに身近で、人口に膾炙していたかを窺わせる。