「最初に台本を読んだ時は虫を食べるシーンが嫌だなと思ってたんです。でもロケで一番苛酷だったのは、家族で豚を追いかけるのと、天竜川を渡るシーンでしたね。全員CGなしで、本当に体を張りましたから(笑)」
大河ドラマ『真田丸』の豊臣秀吉役が記憶に新しい名優・小日向文世さん。最新の主演映画『サバイバルファミリー』(矢口史靖監督)は、ある日突然電気を失いライフラインが止まってしまった世界で、食べ物を求めて東京から命がけの脱出をする家族の物語だ。ダメ親父役の小日向さんの撮影は、文字通りサバイバルそのものだった。
「川に浸かって渡るシーンは、映画だと夏の設定なんですが、実際は11月末に撮っているんです。もうあまりの冷たさで固まりましたね。僕は血圧が高いからお医者さんもスタンバイして、首の隙間からウェットスーツにお湯を注いでもらったりしながらの本当にぎりぎりの撮影。でも矢口監督は容赦なく、『もっとしっかり水かいてください!』ってダメ出し(笑)。100キロ以上ある豚たちを捕まえるシーンは、テストなしのぶっつけ本番。必死に逃げ回る豚をボロボロになって追いかけるのを、監督はギャハハギャハハと大笑いして見てました。しかも何テイクもくり返してね! そんな限りなくドキュメンタリーに近い撮影だったから、妻役の深津(絵里)さんはじめ家族4人の結束力がどんどん高まりました」
電気を失って初めて気づかされる都市生活の脆弱性。3.11後の日本に本作が投げかける意味は大きい。
「もし日本全土で電気が止まったら、まず困るのは水なんですよ。マンションの給水設備も機能せず、上下水道の電気系統も止まってしまうわけですから。3.11の日、公演中だったパルコ劇場から家まで帰るのに普段、車で20分の距離が2時間かかりました。甲州街道が全く動かなかったから、子供たちも迎えにいけず学校に泊まってもらった。災害の時、大都市はものすごく怖いんですよね。この映画をみて、田舎の人は自分たちならさほど困らないと感じると思う。万が一に備えて、2週間ほどの水のストックと家族の人数分の自転車は絶対に必要だと思いましたね」
愛妻家として知られる小日向さんは、日頃から心がけていることがある。
「今は家族それぞれがテレビやスマホを見ている時間が圧倒的に長いじゃないですか。別に喧嘩してるわけでもないのに自然と会話が減っていて。だから少なくとも食事の時だけは会話を大事にしようって心がけています。あと、家庭では女房を立てるかな。まあ、女性は強いですからね。こういうサバイバルの時、やっぱりイニシアチブをとるのは女房だと思いますよ(笑)」
こひなたふみよ/1954年、北海道生まれ。77年より串田和美主宰の「オンシアター自由劇場」に19年間在籍。ドラマ『HERO』や三谷幸喜作品など、数多くの映画・ドラマ・演劇作品に出演。主な出演映画に『アウトレイジ ビヨンド』『清須会議』『ソロモンの偽証 前篇/後篇』などがある。
『サバイバルファミリー』
2月11日(土)より全国東宝系にて公開
http://www.survivalfamily.jp/