日本大学芸術学部写真学科を卒業後、社員カメラマンとして集英社に入社した中村昇氏。ティーン向けのファッション誌『セブンティーン』でのグラビアページの撮影を皮切りに、『週刊プレイボーイ』など、その時代を代表するアイドルやタレントを撮影してきた。西城秀樹、郷ひろみ、キャンディーズ、後藤久美子……。数え切れないほどの芸能人をファインダー越しに見つめ、カメラに収めてきた。

「僕は、撮影させてもらった芸能人と個人的に親しくなるということはほとんどなくて、一定の距離をもって付き合ってきました。それでも毎週、毎月のように撮影があり、国内外を含めて一緒にロケに行くことも多かったので、いろんな事件がありましたね」と語る中村氏。西城秀樹さんは、『セブンティーン』での撮影が多く、音楽の話をしたり、中村氏の家で撮影したりと比較的親しかったそう。多忙を極めていた彼とハワイ、フィリピン、ロンドンなど、海外取材に行く機会も多かったという。

1976年サンタロサ、コテージのテラスで朝食 ©中村昇

フィリピンの空港で「ホールドアップ!」

「フィリピンのサンタロサに行ったときに、空港でちょっと待てと止められたことがあって。荷物を受け取る場所で、最初は静かに待っていたんだけど、なかなか荷物が出てこなくて、ふと見ると他の乗客は自分で荷物を取りに行って次々と空港から出て行くのね。で、僕らも荷物を取りに行こうかって歩き出したら、数人に一斉に銃を向けられて。秀樹もマネージャーも全員固まってホールドアップ! あのときは本当に心臓が止まるかと思うほど怖かった。理由はわからず、結局は何事もなく空港を出られたのでよかったのですが」

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 そのときのロケでは、ディスコに行ったら、たまたま日本で演奏したことがあるバンドが出ていて「日本の有名な歌手、HIDEKI SAIJOが来てるので、歌ってもらいましょう」って紹介されて、『フィーリング』を歌うというハプニングも。

1977年ロンドン、ハイドパークホテルにて ©中村昇

「わぁビートルズだ! ロンドンだ!」

「ロンドンに行ったときは、他誌の撮影で、スペイン、パリと回ってきた秀樹とロンドンで合流しました。ヒースロー空港へ迎えに行ったら、移動が多く、慌ただしかったせいか相当疲れているように見えました。だけど、ロンドンタクシーに乗ったら、ラジオからビートルズが聞こえてきて。そしたら、『わぁビートルズだ! ロンドンだ!』ってすごく無邪気に喜んでいたのが印象に残っています。本当に音楽が好きなんだなと思いましたよ。そのときはシングル『ブーメランストリート』のジャケット撮影が中心だったのですが、もちろんアビーロードへも行きましたよ。横断歩道で写真を撮ったかどうかまでは覚えてないですが(笑)」