「うちはうち」日本の独自解釈が生み出した”ファミリー統治”
おぐら 吉本に限らず、芸能界にはファミリー文化が根強いです。サブちゃんの北島ファミリー、萩本欽一の欽ちゃんファミリー、番組単位でも『めちゃイケ』ファミリーと言ったりとか。たけし軍団や石原軍団もそう。新しいところでは、LDHがグループ名に「from EXILE TRIBE」と付けるのも、わかりやすくファミリー思想です。
速水 でもそれがみんな大好きだし、だからH Jungle With tの「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」がヒットしたんだよ。「そうしてたまには肩を並べて飲もうよ」っていう歌詞に全部詰め込まれている。あれは日本的な儒教の受容のあり方そのものというか。
おぐら その延長として、「仲間がやられたんだ、黙ってられるかよ!」的なノリで報復に行くようなヤンキー作品はずっと人気あります。そういう考え方が、現実の倫理観よりも重んじられる世界を普通に受け入れているどころか、好ましいとさえ思っている人がたくさんいる。
速水 儒教には、上下関係とか礼儀とかしっかりやろうぜって孔子の思想があって、それが東アジアでは政治統治の手段として使われてきた。あらゆるところにいまだに残っているんだけど、歴史を見ても日本は、すぐ儒教に独自解釈を入れてしまう。ファミリーこそが大事でそのなかではルールよりも大事な意識ってあるよねってやつ。H Jungleっぽいでしょ。
おぐら 比喩としてのファミリーではなく、実際の家族でも「うちはうち、よそはよそ」って言いますもんね。
速水 社会をよくしたいと考えるときに、この社会で一番弱い人たちをなんとかしようと考えるのがリベラルだとすると、逆に外はいいから自分の目の前の弱っている人をまずはなんとかするべきだというのが保守なんだよね。つまり、ファミリーや近所をまずよくする。これは間違ってない。それが、俺たちだけ守られてないぞ、俺たち以外はもっと守られているのに、って思ってる人たちが増えている。
吉本興業が目指すべき道は「品行方正」ではない
おぐら 親兄弟や近所の人に手を差し伸べるっていうのは、地元こそ大事にするべきだっていう今の風潮にも合っている気がしますけど。
速水 でもそういうファミリーの論理を突き詰めていくと、内輪のルールが絶対になって暴走したり、それこそ地域に密着した反社会的勢力との接点も生まれてくる。
おぐら 「腹減ってるならいつでも飯食わせてやるよ」と言ってくれる人が、別の場面では「俺の言うことが聞けねえのか」とか言いますもんね。
速水 父親に限らず、会社とか組織でも上に立つ人間は、すぐに「言うこと聞けないなら出て行け」って言うでしょ。で、本当に出て行ったら、圧力をかけたり、いろんな妨害をする。
おぐら 今も至るところでそういうことが起きてますよ。
速水 そう考えると、ほんと加藤の乱が失敗に終わったのがつくづく残念。やっぱり革命ができない国なんだって自覚せざるを得ないし、これはずっと続くんだなって。ウォウウォー・トゥナイトだし、ウォウウォー・フォーエバーなんだよ。こうなったらザブングル加藤の乱でもいいから……。
おぐら ザブングルは、ワタナベエンターテイメント所属ですけどね。
対談写真=山元茂樹/文藝春秋