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新鍋理沙が語る「中田監督の質問力」

 心臓外科医のような目で選手を観察し、伸びる瞬間を見逃さない中田の手腕は実は、12年に就任した久光製薬スプリングス監督時代に培ったものだ。しばらく優勝から遠ざかっていた久光でまず手掛けたのは選手の意識改革。実力がありながら結果を出せないのは、技術以前に、アスリートとしての心構えに問題があると踏まえ、何を考えバレーに取り組んでいるか、そんな基本的なことから選手と徹底して対話した。練習や試合では選手の一挙手一投足に目を光らせ、常に「なぜ」と問い続けた。小柄ながら攻守ともに卓越した技を持つ新鍋理沙がこんなことを語っていた。

「久美さんは選手同士でも気づかないちょっとした変化も察知する。レシーブ時の間の取り方、スパイク時のステップの踏み方などの技術的なことはもちろん、試合や練習の後に『何を考えあのプレーをしたの?』『なぜ、そう判断したの?』と徹底的に質問される。でも、ヒントはくれても答えはもらえない。だからワンプレー、ワンプレーを考えながらやる癖が付きました」

新鍋理沙氏 ©文藝春秋

 中田によって明確な目的意識を植え付けられ選手たちは一気に成長、監督就任1年目から国内の主要大会をことごとく制覇し、以降“久光王国”を作り上げた。中田はそんな実績をひっさげ、満を持して全日本の監督に招聘されたのだ。

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“バレーIQ”を引き上げろ!

 きめ細やかな指導ぶりは代表監督になっても変わらない。いや、益々磨きがかかったといってもいい。中田は、選手に考えさせる作業を頑なに行う。そのため試合はもちろん、練習から選手の仕草、会話、動きなどを事細かにチェックし、夜はビデオを見ながら一人一人のプレーや動きを確認。中田が微に入り細に入り選手の動きをチェックする理由をこう語っていた。

ロサンゼルスオリンピックに出場した中田氏 ©JMPA

「選手に考えさせる以上、選手の“今”を知る必要がある。そこの判断を間違えてしまうと、選手の成長を妨げかねません。トコトン考えさせるのは、眠っている意識を顕在化し、意識レベルに昇華させる、つまり“バレーIQ”を引き上げることなんです」