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闘牛は「時代遅れな動物虐待」? 動物愛護団体vs.伝統文化、法廷闘争で勝ったのは

闘牛は「時代遅れな動物虐待」? 動物愛護団体vs.伝統文化、法廷闘争で勝ったのは

2019/08/30

source : 週刊文春デジタル

genre : ニュース, 国際, 歴史

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マヨルカ島が「闘牛反対派」に

 騒動の直近の発端は2年前に遡る。以前から動物愛護団体から「動物虐待」とする抗議活動は続いていたが、ついに2017年、マヨルカ島のあるバレアレス諸島自治州の地元議会が闘牛の運営法に規制の網をかける法案を可決したのだ。法律は厳密には闘牛そのものを禁止してはいなかったが、内容を見る限り、実質的な禁止であることは明らかだ。

 いわく、競技時間の10分以内への制限、馬の使用禁止、槍や銛など武器の使用禁止、牛の体重制限、牛を殺すことの実質制限など。

闘牛再開の宣伝写真。闘牛士が剣で刺し殺す前に牛は両手に持たれた銛で刺される(マヨルカ島の闘牛場「バレアレス・コロシアム」のフェイスブックより)

 スペインの闘牛では闘牛士のほかに騎乗のピカドールが牛を槍で突き、最後に闘牛士が剣を突き刺す。二種類の布と素手だけでやれ、というのは伝説の空手の達人、大山倍達でも断る条件だろう。

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 一連の動きは2010年、別の自治州カタルーニャで闘牛が禁止されたのを受けてのものだった。カタルーニャはバルセロナを中心とし、歴史的経緯から民族運動が盛んな地域で、2017年には独立宣言まで行い、トップが亡命した因縁の地。闘牛はスペインの伝統ではあってもカタルーニャの伝統ではない、という論法だ。

 独立運動をしているわけでもないマヨルカ島まで禁止派に入ったことで、国内では当然、論争が再燃した。一旦の結論をつけたのは憲法裁判所だ。昨年12月、動物愛護団体の期待もむなしく、闘牛を禁じる自治州の法律を違憲と判決したのだ。

闘牛再開を控えた牛(マヨルカ島の闘牛場「バレアレス・コロシアム」のフェイスブックより)

「まわし」「まげ」「女性力士」を禁じるようなもの?

 裁判所の理由はこうだ。

 スペインの憲法46条では《公的機関はスペインの人々の歴史的、文化的、芸術的な遺産の保護や振興を保証しなければならない》と規定する。

 だが、今回の法律が実質的に禁じる“牛の殺害”は、「現代の闘牛に不可欠な要件の一つ」。そのため「牛の最期」をなくす今回の法律は、従来の闘牛と「認識できないまでに闘牛を改変してしまう」。よって「スペインの無形文化遺産の一部である闘牛の保護義務に違反する」というのだ。

 ふたたび相撲に引きつけると、こういうことになる。名古屋場所や九州場所など、地域によって運営方法を変えることはあっても、従来の相撲だと分からなくなるような変更まではまかりならん。まわしやまげを禁じたり、女性力士を認めたり、というような改変は許されない、というところだろうか。