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“既に手元にある戦力”で勝負しなければいけないのは、卒業論文も野球も同じだ

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/09/03
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 そして、もちろんその原稿を書くにも一定の時間がかかる。我々ベテランの教員でも本格的な論文の執筆には1ヶ月以上かかる事が通常であり、初めて論文を書く学生なら余裕を持ってその2倍、つまり2ヶ月程度は見ておいた方がいい。だとすれば、単純計算で論文は年末の2か月前、つまり10月末には書き始めた方がいい事になる。更にいえば、そもそも研究の内容が最初から箸にも棒にもかからないものであっては困るので、書き始める前に、つまり、10月末より前の段階で、一度ゼミ等で報告して教員に確認をとっておいた方が良い。だとすれば、後期が始まってすぐの10月の早い段階で概要を報告して、論文の大枠にOKをもらっておかなければならない事になる。

 加えて更にここで考えておかなければならない事がある。それは論文を書きながら資料収集や実験を行うのはナンセンスだ、と言う事だ。なぜなら期待したものと異なるデータが出てくれば、論文はその都度書き直しになるから、時間がいくらあっても足りないし、そもそも本当に締め切りまでに研究の完成にこぎつけられるかすら、怪しくなるからだ。だから、後期がはじまった早い段階で、卒業論文や研究、修士論文や博士論文のためのデータ収集や実験は終わっていなければならず、それはおおよその作業がこの夏休みの間に終わっている事が望ましい事を意味している。そう、学部卒業や大学院修了に向けての最後の勝負は、彼らがここまでどれだけ勉学を積み、研究を続けて来たかに「ほぼ」かかっているのである。さて、皆さん、大丈夫でしょうか。

「既に手元にある戦力」をどうやって活用するか

 明らかなのは、この夏休みを終えたら、卒業を控えた学生には、もう追加の本格的な資料収集や実験を行う時間はほとんどなく、「手元にある戦力」で勝負しなければならない、という事だ。そして、言うまでもなく、終盤に差し掛かったペナントレースも同様である。春先とは異なり、この段階ではもはやファームで若手を育成し、新たな戦力が育ってくるのを待つ事は出来ない。他方、苦しい夏の連戦を経て、疲労が溜まっており、調子を落としたり故障したりして、戦列を離れていく選手たちも増えていく。トレード期限もすでに過ぎており、新たな戦力を補強することも不可能だ。

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 だとすると、今後のペナントレースの行方は、各チームがファームにどれだけの予備戦力を抱えており、またそれをどうやって活用するかにかかっている。ペナントレース後半に入り、ロメロが復帰し、中日から金銭トレードで獲得したモヤがクリーンナップに入ったことで、急速に成績をあげつつあるオリックスであるが、この点でもチームの今後の伸びしろは依然、大きい。重要なのは、同じくクライマックスシリーズ進出を争う他球団が、早い段階から中継ぎや抑えを酷使し、その疲労が溜まっているのに対し、シーズン後半で抑えを増井からディクソンに変えたオリックスの中継ぎ、抑えにはまだ登板数の余裕が残っていることである。

 加えて更に重要なのは、今シーズン序盤のローテーションを支えた山本由伸と榊原翼が休養十分の状態で、間も無く一軍に復帰する事である。先発のコマが新たに二枚増えれば、当然、それだけローテーションに余裕ができ、余った戦力を中継ぎに回すこともできる。どのチームも戦力のやりくりに困るシーズン終盤、この二人の復帰は限りなく大きい。

 そして、オリックスにはもう一枚、大きなカードが残っている。言うまでもなく、それはシーズン序盤で戦列を離れた「浪速の轟砲」T-岡田である。複数年契約の最終年にあたる今年、既に来シーズンの去就が囁かれている岡田であるが、自らの今後の為にも、シーズン終盤での巻き返しを望んでいるのは、彼自身であるに違いない。母校履正社の甲子園優勝の余韻の残る中、彼の勇姿をもう一度スタンドで見たいファンは多いはずだ。復活したT-岡田が、オリックスをクライマックスシリーズに導いていく。そんなドラマを見てみたいのは、筆者だけではないに違いない。

シーズン序盤で戦列を離れたT-岡田 ©文藝春秋

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