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「食べる・しゃべる・笑う」がセットで失われる

 なぜ病院で「食べる力」は奪われてしまうのか?

 もちろん、医者に悪意がある訳ではない。

 例えば脳梗塞や心疾患などで緊急入院すると、少しでも治療の妨げになりそうなものは一旦排除される。食べものが間違って肺に入る「誤嚥(ごえん)」によって起こる「誤嚥性肺炎」は、高齢者にとって命の危険のある重篤な病気であり、これを避けるためなのだ。

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「食べること」は誤嚥性肺炎の最大の危険因子と考えられている。だから、医師は少しでも誤嚥の危険があると、患者に禁食を命じ、「医療の力」で栄養を送り込むようになる。

 するとどうなるか? 口や喉の筋力が衰え、あっという間に「食べる力」が失われてしまうのだ。これが長期化すると、本当に自分で食べることが出来なくなり、口の筋肉が弱まることで「しゃべる」「笑う」といった人間の基本的な動作までも難しくしてしまう。さらに、認知症や転倒のリスクも高まってしまうことが分かっている。

医師は幸せな老後を約束してくれる存在ではない

 多くの患者を取材していて思うことがある。それは医師という仕事に幻想を抱いていることだ。多くの患者は何でも医師に相談する。医師に聞けば、何でも答えてくれると勘違いしている。

 しかし、医師とは本来、病気を治し、病気になる危険を防いでくれる存在以外の何者でもない。幸せな老後を約束してくれるアドバイザーでは決してないのだ。もしも、医師が『食べても良い』と言った結果、誤嚥性肺炎になってしまったら、それは医師の責任になってしまう。少しでも命に関わる病気の危険があれば、「食べること」を禁じる。これは医師としては当然なことなのである。

必要な医療とは、「食べる力」をサポートすること

 では、どうすれば良いのだろうか?

 最期まで健康で寝たきりにならずにいるために最も必要なことは、人間の基本的な力である「食べる力」を維持し、最大限にそれを引き出す努力だ。

 いま、「食べる力」を取り戻すために動いてくれる医者も少しずつ増えてきており、私は彼らを「食医」と呼んでいる。栄養サポート、食事形態への配慮、口腔ケア、お口のリハビリなど、「食べる力」をサポートしてくれる「食医」を探し、活用していくことが非常に重要である。

 当然のことながら、食事の介助は非常に労力がかかるため、親が楽しく食べたりおしゃべりしたりしてくれることは、介護する側にとってもメリットが大きい。親子が最期の瞬間まで幸せでいるために、今のうちから「食べる力」について話し合ってみてはいかがだろうか。

口腔医療革命 食べる力 (文春新書)

塩田 芳享 (著)

文藝春秋
2017年1月20日 発売

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