入院などで医療を受けたことをきっかけに、自分で噛んで食べられなくなるお年寄りがふえている。しかも、放置すれば衰えは進行し、さらなる病いや認知症を招くとも。みずから噛み、食べることに注視して、その重要性を説く『食べる力』(文春新書)の著者、塩田芳享さんが、老いてゆく親の「要介護」予防策を指南する。
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日本は寝たきり期間ワースト1
日本は世界有数の長寿国である。喜ばしいことのはずなのに、好意的な報道が少ないのは何故か。それには、こんな理由がある。
日本は平均寿命も長いが、同時に健康寿命との差も長い。男性は9年、女性は12年。アメリカ、イギリス、ドイツなどの欧米諸国が軒並み6、7年であるのと比べると、日本が圧倒的に長いのだ。
つまり、平均寿命も長いが、寝たきり期間もワースト1だ、ということなのである。だから、日本は世界的な長寿を素直に喜べない。
そこには、医療者たちが言いたくとも言えない『医療界の不都合な真実』がある。
「食べる力」を奪う『医療界の不都合な真実』
何故これほど「寝たきり期間」が長いのか? その答えは、日本の高齢者の多くが、人間が本来持っている力ではなく、医療の力で生かされている、ということにある。その顕著な例が、自分の口で噛んで飲み込むという「食べる力」が軽視されている現状だ。
生き物はすべて、食べることで生命活動を維持し、食べられなくなったら死ぬ運命にある。これが自然の摂理だ。しかし、人間だけがこの摂理に反した行為を始めた。自らの「食べる力」が弱ってしまっても、点滴や胃ろうなどの人工栄養による医療の力で生きられるようになったのだ。
しかし、もっと問題なのは、まだ自分の力で食べることのできるお年寄りからも、「食べる力」と「食べる楽しみ」を医療界が奪ってしまっていることである。