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「もう少し、お安くできませんかしら」セール品に更なる値引きを要求されたスーパーの従業員の憂鬱

“カスハラの現場” 大手スーパーの衣料品売り場で働く加藤さん(仮名・56歳男性)

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笑顔からの豹変「なんなのよ、あんた!」

 何度も断わったが、しつこく粘る。15分から20分が過ぎ、押し問答のようになってくると、満面の笑みだった相手の顔が、次第に強こわ張ばってきた。

「なんなのよ、あんた! もう少し下げたら買ってあげる、って言ってるのよ!」

 大声になったのは突然だった。

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「あんたみたいな従業員は、初めてだわ」

 そう怒鳴ると、おもむろに、手にしたカーディガンのチェックを始めた。そして、商品としては許容範囲内の糸のほつれを無理やり見つけ出すと、こう叫んだという。

「ほら、これ不良品じゃないの! この店は、こんな不良品売ってるの? 検品もまともに出来てないの?」

©iStock.com

 明らかに、周りの客に聞こえることを狙った大声だった。加藤さんは、

「お客様から不良品と指摘された以上、こちらとしては販売出来ませんから」

 と伝え、相手からカーディガンを受け取ろうと手を差し出した。途端、その手はパーンと弾かれた。加藤さんはさすがにムッとしてしまい、

「暴力は止めていただけませんか」

 と咎めた。

「あなたが、私に汚い手で触ろうとするからでしょう!」

「防犯カメラに写ってますよ」

「治療費でも慰謝料でも、なんでも請求しなさいよ!」

 客の激高は、さらにエスカレートした。加藤さんも驚いたが、遠巻きにしていたほかの客たちもみなびっくりしていたという。

 収拾がつかなくなり、売り場責任者である上司が出てきた。とにかくお詫びを重ね、ひたすらなだめて頭を下げた。相手は、

「お宅も、こんな不良社員を教育するのは苦労しますね。まったく!」

  などと毒づいたが、上司がお詫びに出てきたことで、少し気が静まったようだった。

 その場はひとまず収まり、問題のカーディガンは取り置き扱いにして、その女性客は帰った。しかし後日「やっぱり要らない」と、キャンセルの連絡が入ったという。