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「もう少し、お安くできませんかしら」セール品に更なる値引きを要求されたスーパーの従業員の憂鬱

“カスハラの現場” 大手スーパーの衣料品売り場で働く加藤さん(仮名・56歳男性)

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自分の対応がまずかったのかと自問自答……

 加藤さんが後で聞くと、その女性客は“常連”として知られていた。以前から、従業員の口の利き方や態度が気に入らないと、頻繁にクレームを付けていた。バーゲン時期にさらに値引きを迫るのも、初めてではなかった。

「お店側も渋々、もっと安くしたことがあったらしいんです。ごねて得をした経験があるから、今度もどうにかなるって考えだったんでしょう。お友達とかに、『私、ここまで得して買えたのよ』って自慢したかったんじゃないかと思います」

 これは3年前の事件だが、加藤さんにとって忘れられない出来事になっている。

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「値切ったお客様だけさらに値下げしたら、ほかのお客様に対して失礼です。まして、たくさんのお客様が見ている前でしたから、引くわけにもいかず、つい押し問答になってしまったんです」

 傷ついたのは、それなりのプライドを持って長年接客してきたのに、“不良社員呼ばわり”されたことだ。

「もしかしたら自分の対応がまずかったのかと自問自答して、適切な対処だったと言い聞かせて、無理やり自分を納得させたんです。けれどいまも、接客しながらあのときの光景が頭をよぎります。

『こう言うと、気分を損ねてしまうのではないか』という気遣いは当然ありますし、『このお客様も、どこにスイッチがあるかわからない』という目で見てしまって、ビクビクしながら接客するのが日常茶飯事になりました」

 ベテラン店員の加藤さんが、昔と比べて変わったと思うのは、クレームが悪質になったことだ。明らかに店に落ち度がある場合の苦情は、以前もあった。

  しかし、理由もなく値下げを要求し、応じなかったからというのでクレームに発展するようなケースはなかった。

 ほかの客の前で大声で喚わめけば言い分が通ると思っているような、店側の弱みを逆手に取る客が増えた。加藤さんは、客との距離が遠くなったように感じている。

◆日本中で起こっている「カスハラ」の対策と改善例は『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』に収録されています。

カスハラ―モンスター化する「お客様」たち

NHK「クローズアップ現代+」取材班

文藝春秋

2019年8月29日 発売

「もう少し、お安くできませんかしら」セール品に更なる値引きを要求されたスーパーの従業員の憂鬱

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