昨秋の米大統領選に続き、今年は仏大統領選や独総選挙など欧州でも重要な政治日程が続く。水島治郎『ポピュリズムとは何か』(中公新書)は、日本の「維新」躍進にも触れつつ、世界各地のポピュリズムを分析。その上で「現代のデモクラシーは、ポピュリズムを通してその内在的な矛盾を突きつけられている」と指摘し、また単純にポピュリズム政党を批判するだけでは逆にその正統性にお墨付きを与えると説く。民主主義の困難さと向き合うための格好の1冊だ。
日本は物価は安く、メシは旨く、公的サービスは良好――吉崎達彦『気づいたら先頭に立っていた日本経済』(新潮新書)はそう指摘しつつ、日本は「パンよりサーカス」の遊民経済学へ踏み出すべきと訴える。双日総研チーフエコノミストである著者が「ギャンブラーは経済の救世主」と説き、“二郎好き”としてラーメンの快楽を語る。「働き方」ではなく「遊び方」改革こそ必要という本書が描く未来は、楽しく明るい。
石川理夫『“本物の”名湯ベスト100』(講談社現代新書)は、従来の温泉ガイド本には3つ欠点があったと言う。(1)温泉地より温泉“宿”偏重、(2)ランク付けの基準や根拠が曖昧、(3)泉質の基本データが未記載。本書はその欠点を補い、「源泉そのものの質」や「温泉地の景観・情緒」などを評価する客観的指標を5つ設定して100の名湯を選び抜いた。触れる、見る、聴く、かぐ、味わう――五感で名湯を楽しむ方法も紹介するなど、著者の熱い温泉愛に浸ることができる。
50、60代、そして70代でセックスワークを生業とする女性の姿を描く中山美里『高齢者風俗嬢』(新書y)は、高齢社会・日本に一石を投じる。70代の「超熟女」AV女優やソープ嬢は、不幸の果てに性産業に堕ちたのではない。彼女らの多くは事情の差こそあれ、誇りとやりがいを持ち、人生を謳歌する。著者は超熟女の登場は性産業における常識の変化ではなく、潜在的な性的嗜好に対して市場が追い付いて来たと分析する。
奥田昌子『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』(ブルーバックス)は、欧米人に有効な健康法が日本人にも効果的とは限らない、という視点から書かれている。異なる遺伝子を持ち、異なる環境下で生きてきた人種では体質にも差があり、有効な健康法や病気の予防法も違う。「日本人は炭水化物の摂取が減ると膵臓に負担がかかり糖尿病を発症しやすくなる」といった一連の科学的指摘からは、その事実以上にブームに流されないことの重要性を教えられる。(走)
【文藝春秋 目次】<第156回芥川賞発表 受賞作全文掲載>山下澄人「しんせかい」/<著名人60名アンケート>安楽死は是か非か/<特別対談>橋田壽賀子×鎌田實
2017年3月号
2017年2月10日 発売
特別定価970円(税込)