「差額分は会社に返納する。ご心配おかけして大変申し訳ない」
9月5日、日産自動車の西川廣人社長は、社内規定に違反して不当に上乗せした報酬の受け取りについて認め、謝罪した。
突如報じられた西川氏の不正は、カルロス・ゴーン前会長の逮捕以来、「ガバナンスの改善」を掲げてきた日産自動車にとって大きな打撃となった。
実は、この不正報酬疑惑は、すでに「文藝春秋」7月号「西川廣人さんに日産社長の資格はない」で、日産の前代表取締役であるグレッグ・ケリー氏が明かしていたものだ。
「行使日」をずらして約4700万円を上積み
西川氏が不正な報酬の受け取りに用いたのは、ストック・アプリシエーション権(SAR)である。これは日産が導入している株価連動型の役員報酬のこと。あらかじめ基準となる株価が決められていて、その価格と、権利行使したときの市場株価との差額を日産から受け取ることができる仕組みだ。
ケリー氏の証言によれば、西川氏の本来の「行使日」は2013年5月14日だったが、実際に行使されたのは同年5月22日。この約1週間で、行使価格は約120円(約10%)上昇している。
ケリー氏は「文藝春秋」のインタビューに応じ、こう明かしている。
「5月14日に一度行使したのに、その後に日付だけを変更して『再行使』し、当初の行使のときよりもずいぶん大きな金を儲けた。約4700万円が上積みされ、トータルで約1億5000万円の利益があったと記憶しています。当然、特例中の特例です。私の知る限り日産史上初めて、行使日を後ろにずらしました」
日産社内でも「西川社長はクロ」
西川氏はゴーン前会長の逮捕以来、「裏でこんな重大な不正行為をしているとは思いもよらなかった」と厳しく批判してきた。
その西川氏が不正な報酬を受け取っていたとすれば、再建に取り組む日産のガバナンスを根底から覆す重大な問題であることは言うまでもない。
共同通信など一部をのぞく日本メディアは、ケリー氏が明かした西川氏の不正についてほとんど報じることはなかったが、日産社内には大きな衝撃を与えていた。日産関係者が声を落とす。
「当初、西川社長の周辺は『記事はまったくのデタラメ。提訴も辞さない』と息巻いていたそうです。ただ、社内でも『西川社長はクロ』との見方は根強く、大手新聞社の記者に対し、『SARの件はしっかり調べた方がいい。あれは間違いない』と囁く幹部もいました」