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「デブは美しいわけがないのか?」とプリントされたスウェット

 そんな時代に逆行するような服が大問題になった。REVOLVE(リヴォルヴ)というファッション・ブランドがオンライン・カタログに載せた女性向けスウェットの胸にこんな文字がプリントされていた。

「Being Fat Is Not Beautiful. It's An Excuse(デブが美しいわけがない。ただの言い訳よ)」

 写真ではスリムな体型の美女がそれを着ている。

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 これに憤慨したのはレナ・ダナム。自分が主演するTVコメディ「ガールズ」の企画製作脚本を担当するマルチ・タレントだが、ドラマの中では家にいる間は全裸。全裸で食事してテレビ見て。しかも太くて寸胴。「そんなもの見せるな」と言われれば言われるほど脱ぎまくるレナ・ダナムは、まさにボディ・ポジティヴィティ運動の旗手である。彼女は「この企画から降ります」と表明した。

 この企画って? 実はその「デブが美しいわけがない」Tシャツは、偏見や差別と戦う女性たちを励ますためのチャリティ企画のために作られた。レナ・ダナムのような女性たちがSNSでぶつけられた嫌がらせの言葉をあえてプリントした服をそれぞれが着てキャンペーンをするはずだった。ちなみにレナ・ダナムが着る予定だったのは「今のフェミニズムの悪い例」という言葉で、「デブが美しいわけがない」は人気のLサイズ・モデル、パロマ・エルセッサーが受けた罵倒だった。それがなぜか、キャンペーン前に商品化されてしまったのだという。しかし、なんでそんな事故が起こるんだよ。

 レナ・ダナムはREVOLVEに抗議するため、インスタグラムにルーベンスの描いた豊満な女性たちの絵と、シャワールームの床に裸で横たわる自撮りをくっつけた。ただ脱ぎたいだけじゃないの?

 筆者の全裸自転車ライド取材は既に日本のテレビで放送された。画面いっぱいに数千人のおっぱいやちんちんが映り続けているため、1つ1つ修正するのは不可能ということで、首から下が全部ボカされて、何が何なんだか全然わからない、という放送事故モノになってしまった。オレと1万人脱ぎ損!

[初出 週刊文春2018年10月11日号]

第3弾「「キアヌ・リーブス」は9月27日金曜日に公開されます。

アメリカ炎上通信 言霊USA XXL

町山 智浩

文藝春秋

2019年9月27日 発売