ガタガタのトランプ政権下のアメリカでは、相も変わらず差別やテロ、デモが横行中。そんなアメリカで話題となった、もっともインパクトのある発言・暴言を取り上げるコラム「町山智浩の言霊USA」のシリーズ最新版『アメリカ炎上通信 言霊USA XXL』が発売中。この最新コラムから選りすぐりの全3本を公開中! 最後は「キアヌ・リーブスの I know the ones who love us will miss us. 」

キアヌ・リーブス ©文藝春秋

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悲しげな表情で167人の敵にとどめを刺すキアヌ・リーブス

 全世界で26億ドルという映画史上第2位の興行収入を記録した驚異的ヒット作『アベンジャーズ/エンドゲーム』を全米トップの座から引きずり下ろしたのは、キアヌ・リーブス主演『ジョン・ウィック:パラベラム』だった。

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 キアヌ扮する殺し屋ジョン・ウィックが、押し寄せる刺客を、ただひたすら殺しまくるだけのシリーズ第3作。いつもの通り、キアヌはスタントの9割を自分自身で演じたというが、その殺した数がものすごい。1作目では85人、2作目では119人殺したジョン・ウィックは、この3作目で、銃で124人、ナイフで32人、斧で1人、馬で3人、犬で3人、バイクで3人、そして図書館の本で1人。合計167人の敵を、決して手負いのまま放置したりせず、一人一人丁寧にきっちり、とどめを刺していく。

 これでジョン・ウィックは、『エルム街の悪夢』のフレディ(累計34人)、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス(87人)、『ハロウィン』のマイケル(140人)、『13日の金曜日』のジェイソン(157人)を超えて映画史上最凶の殺人者に輝いた。

 でも、ジョン・ウィックはちっとも凶悪に見えない。誰を殺すときもその表情は物憂げで悲しげ。余裕のあるときは死んでいく敵に優しく「また会おうね」と囁く。生きていても罪を重ねるだけの殺し屋を慈悲深く成仏させる聖人のようだ。さすが『リトル・ブッダ』でお釈迦様を演じたキアヌ。