通りがかりのライダーに「手伝うよ」声を掛けられ
その頃、新人女優だったオクタヴィア・スペンサーはオンボロ車でチョイ役のオーディションに向かっていたが、エンジンが煙を吹き、道端で立ち往生した。オーディションに間に合わない! とオロオロしていると、通りがかりのライダーに声を掛けられた。
「手伝うよ」
ライダーは車を路肩に押してどけると、スペンサーをバイクの後ろに乗せてオーディション会場に運んでくれた。ヘルメットを取ったその顔はキアヌだった。スペンサーは『ヘルプ 心をつなぐストーリー』(2012年)でアカデミー賞を獲得した後も、「彼がいなければ今の私はなかった」とキアヌの映画を毎回初日に観ているという。
その他、地下鉄で女性に席を譲ったり、飛行機が緊急着陸したときに一般人と一緒に楽しげにバス移動したり、全米各地で善行を重ねるキアヌの姿が目撃された。
「僕ら、死んだらどうなるんだろう?」
そんなキアヌはコメディアンのスティーヴン・コルベアのトークショーで『ビルとテッド』の29年ぶりの続編出演について話した。「ビルとテッドが死ぬまでに宇宙を救う歌を作らなければならなくなる」ストーリーだそうだ。それを聞いたコルベアは「僕ら、死んだらどうなるんだろう?」と呟いた。キアヌは息を深く吐いてから静かに答えた。
「僕らを愛してくれてる人々が僕らを悼んでくれるよ」
多くの愛する人を失ってきたキアヌの心からの言葉。いつもはジョークばかりのコルベアも思わず声をつまらせた。彼も10歳の時に飛行機事故で父と兄を失っているからだ。
最近は、『スピード』(94年)で共演したサンドラ・ブロックが「本当はあなたが好きだったの」と告白したり、『ドラキュラ』(92年)で夫婦を演じたウィノナ・ライダーが「あなたとの結婚式シーンは本物の神父さんの前で誓ったから私たちは夫婦よ」と今頃になって言い出してるけど、もっと早く言ってやれよ!
[初出 週刊文春2019年6月27日号]
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